複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】銀竹さんイラスト掲載 ( No.96 )
日時: 2016/10/01 15:37
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: NzSRvas.)

「て、天童呉羽、です。よろしく……お願いします……」
「こちらこそよろしくお願いします。僕はアメリカを拠点として活動させてもらっている池目応時です」

 ついに彼女のお見合い時間はやってきた。呉羽は侍女たちに抵抗する間もなくあっという間に着替えさせられてしまった。その間に夜明たちは行方不明になってしまったが。
 日本のお見合い場所と言えば和風の竹の音響く一室かと思いきや、純度100%の洋風の一室。
 豪奢なイスとテーブルに食事。そして売りに出せば数百万は余裕な絵画が飾ってある。部屋の広さとしては20畳もあるだろうか。
 とにかく広い部屋だった。
 とりあえず、其処を置いておいて、呉羽が一番先に思ったことは1つ。

(……池目さん普通の人だ……)

 だった。
 てっきり、欧米被れな発言をかましてくると思ったが、まともな人は真面なのだ。この小説にだって真面目な人がいるんだということを呉羽は再確認した。
 とりあえず修羅場はなさそうな柔らかい池目の雰囲気に呉羽は安心して一息ついた。

「僕もお見合い、初めてなんです。お互い力を入れずにリラックスして話しましょう、呉羽さん」
「は、はい。ありがとうございます……」

 にっこり笑う池目に呉羽は顔を赤くして頭を下げる。そしてもう1つ頭に浮かんだのは、

(……シャチョウたちどこ行ったんだろう……)
























(……どうすればいい……!?)

 そのころ、呉羽の父である天童笄は今生最大の危機が訪れていた。下手したら自分のすべてを奪われるかもしれない。そこら辺のチンピラとは気配も目力も別物であった。
 目の前の人物によって笄は生唾を飲む。

「何で【わたしたち】を此処に置いたの?」

 そう。目の前の人物、夜明と月雲によって。
 笄の頭上には月雲が今流行りの壁ドンを。夜明は笄の下半身を自由にさせないために今流行りの股ドンを。
 傍から見れば凄腕の殺し屋からのカツアゲである。
 夜明の据わった目による問い云々よりこの状況をどうするか考えている笄。

「嘘はつかないほうがいいよ。嘘をついたらうちのエンジニアたちの実験材料にされちゃうからね」
「アイツらなら本当にやりそうだから言うのマジで止めてくんない」
(くそ……っ。これじゃあ要人結社の思うツボだ……!)

 ぎりっと笄は歯を食いしばる。

「……利用する気で呼んだのに……っ」

 その瞬間、笄自身の表情がサッと青ざめていく。言うつもりがなかったようだ。だが、もう聞いてしまったためもう後戻りはできないしよりによって最も質の悪い殺し屋2人組に聞かれてしまった。
 其の言葉で月雲より、夜明の殺すような視線に尻込みしてしまった笄。
 笄の選択肢は1つしかない。

「その問い、に答えましょう……」

 笄は諦めたように体の力を抜いた。
 目線を下の方へ向け、力なく語り始めた。

「この件(おみあい)が成功すれば呉羽は正式に天童家当主になる。その邪魔を排除するためにあなた方を此処へ連れてきました……」
「……一応聞くけどその邪魔って」

 夜明が冷静に返答する。
 笄は言うのも嫌そうに一瞬、口ごもったが、意を決したように口を開く。

「……藻琴。天童藻琴。私の、もう1人の子供です……」