複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物【血の楔篇】銀竹さんイラスト掲載 ( No.97 )
- 日時: 2016/11/01 19:04
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: NzSRvas.)
「あれ? 結廻さん、藻琴君見ませんでした?」
「そういえば……昨日から見てないわねぇ、どこ行ったのかしらぁ」
そのころ、同時刻の要人結社内。パタパタと医務室からスリッパのまま食堂へやってきた時雨。藻琴を探していたのだろう。
丁度其処でジュースを飲んでいた結廻に聞くと彼女はのんびりと答えた。時雨はそうですか、と小さく息を零す。
(……蛇腹さんも華南さんも何か手放せないようだし……。如何しよう)
うーんを少し唸ると、いいことを思いついたのか時雨はそっと結廻に耳打ちする。
「結廻さん、華南さんに相談して藻琴君が何処にいるのか相談してくれませんか? 私、此れから……」
「……ごめんなさいねぇ」
どこか突き放すような声で結廻は普段より大きい声で言う。あまり取り乱すことのない彼女なだけに今の出来事は少し驚くべきことであった。
時雨は結廻の顔を覗き込むと其処には嫌気を隠さない彼女がいた。
「私、華南(あのひと)のことあまり好きじゃないのよぉ」
5
「子供って……呉羽だけじゃなかったのかい? あの2人、全然似てなかったけど」
(一応話は聞いていたんだな此奴)
今まで口を出さなかった月雲が何時もの様な飄々とした笑みを浮かべながら夜明の後ろに現れた。夜明は若干怪訝な目で彼を見ていたが、話を聞くのは成長の証拠として今は何も言わないでおくことにした。
笄は顔を上げないままか細い声で、
「このことを言えば……あなた方はもう二度と呉羽をこちらに寄越さない。そして藻琴を殺すと思った……」
「呉羽は兎も角、何でわたしたちが藻琴を殺さないといけなくなるわけ」
「藻琴と呉羽は血の繋がった姉弟じゃない」
其の言葉に一瞬ではあったが、月雲の口元が引き攣った。恐らく脳裏にとある3文字が浮かんだからであろう。
夜明は気にすることなく「それで?」と笄に言葉を促す。
「呉羽の母——つまり私の妻は今はもう亡くなったが私によく尽くしてくれました……。其れなのに私は一時の過ちで此処の派遣社員の女性を少なからず想ってしまった」
「じゃあその女性って人が……」
「はい、藻琴の母です」
山ほど聞きたいことがあるがもう笄は答えてくれそうな雰囲気ではない。取り敢えずここから移動して呉羽と合流しようと考えた夜明だったが、次の瞬間、耳を突き刺すようなサイレンが聞こえた。
『敵襲!! 敵襲!! 6階にて侵入者!! 虱潰しに破壊して回っている模様』
「敵襲……」
「待ってくれ呉羽さん! 其処に行くんだ? さっきの放送を聞いたはずだ、動くのは危ない!」
「御免なさい、池目さん。でも、でも……!」
着物を裾を持って埃1つのない廊下を走る呉羽。池目の制止があったがそれを聞かずに飛び出したのだ。
(侵入者はわかってる。きっとあの子……! ダメ、止めなきゃ……!)
呉羽の脳裏に浮かぶのは藻琴の姿。
(あの子にもう【人は殺させない】……!!)
『藻琴、どうして』
『姉さん、ゴメン。御免なさい』
『その刀には触れちゃダメとあれ程言ったのに!』
『御免なさい、御免なさい……っ』
泣きじゃくるあの子の下で動かない人形になっていたのは、私の母。