複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】 ( No.99 )
日時: 2016/11/06 20:56
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: NzSRvas.)

——……いいのよ、藻琴。貴方が殺したいように殺しなさい……。

「五月蠅い。お前は引っ込んでいろよ」

 藻琴がいる場所は世界のどこにもない場所だった。まるで、正方形のチェス盤にでも閉じ込められた様な歪な空間。最早、どちらが上で下かわからないのである。
 藻琴は普段夜明には言わないような口調で誰かに話しかける。だが、そこには誰もいない。……のにもかかわらず、藻琴は話し続ける。

「……お前は僕の武器だ。僕の言うことだけ聞いて僕のために力を解放しろよ」

——それは我儘な言い分じゃない? あの時私が助けなかったらあなたも呉羽(おねえちゃん)も死んでいたのではなくて?

「武器の癖にお喋りだな。お前に意見する権利はないよ」

——まあ。我儘を通り越して傲慢になったこと! 母(わたし)は嬉しいわ。でも、本当は思っているのでしょう? 自分たち姉弟の人生を崩した父を。その父はあなたの敬愛する上司まで殺そうとしている……。

「黙れ!! その口叩っ斬るぞ!!」

 バッと、藻琴は手で黒い霧を払う。だが【彼女】には対して攻撃できなかったのか周囲から煩わしい程の笑い声が前後左右から聞こえてくる。

——いいじゃない。好きに生きても。私は妖刀。貴方の意思に沿って全て斬り捨てる。だって私は……。

 やめろ、と言った藻琴の言葉など無視して彼女——落ち椿は惑わすのだ。まるで、命付き静かに首を落とす真っ赤な椿の様に、全てを堕とすのだ。

(私は、あなたの母なのだから)


















「お止めください! おぼっちゃ……うがぁっ!!」

 何人もの警備隊が1人の少年によって圧倒される。命こそ落としてはいないが、腕や足を斬られ、確実に傷を残していた。
 1人の政察が無線機に口を近づける。

『こちら8階! 至急、天童様に連絡……を……』

 言い終える前に政察の男は気絶した。藻琴に察知され、背中を大きく斬られてしまったのだろう。藻琴は目を赤く染めながら男を羽虫程度にしか見ていなかった。
 その姿に他のまだ無傷な政察は怯えを通り越して死ぬ覚悟すらできなかった。死ぬ、死ぬ、死ぬ。
 どうすればいいのかと考えていた瞬間だった。

「もう……。止めて、藻琴……っ」

 ジャコっと、鈍い音が聞こえる。藻琴の前に立ちふさがる様にして現れたのは黒い拳銃を持って構えた呉羽の姿。
 その思いにもよらぬ人物に藻琴は無意識に目を見開いた。

「くれ、はさん……」
「もう1度だけ言うよ、もうこんなこと止めて……!!」













『もこと、てんどうけにつたわる妖刀って知ってる?』
『ううん。わからない。ようとうがどうしたの?』
『おとうさまがいっていたの……。もし、それを見つけてもぜったいにてにふれちゃだめなんですって』
『どうして?』
『ぜったいてきなちからをあたえるかわりに、その持ち主のいのちをすってしまうからよ……』