複雑・ファジー小説
- Re:第二話 〜小さくて大切なモノ〜 ( No.10 )
- 日時: 2016/04/16 14:13
- 名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=171.jpg
「ねえねえ、散々ナメてた俺たちにやられて、どんな気分〜?」
「す……すみませんでした……っ」
「感想になってねえよ。はいやり直し」
倉庫に響く、ねっとりした声。そして、悔しさがありありとにじんでいる声。私の目の前では、ロープでぐるぐる巻きにされたリーダーを、昂先輩と樹希が責め立てている。もちろん、意味ありげにスマホを掲げながら。2人のゲスい顔に、私はいささかげんなりしていた。動画なんか録って、何に使うの、脅し?
「それもある。あと、家でじっくり楽しむ用」
「あ、俺も俺もー!」
「……どん引き」
ため息が自然とこぼれる。今の会話をセスに聞かれなくて良かった。ちなみにセスは、カトレア先輩、慶先輩、司さんに倉庫の外でなだめられている。どうして私がゲス組と一緒なんだ……
不意に、昂先輩がスマホをズボンのポケットにしまい、リーダーに向き直った。真面目モードになったようだ。軽いけれど、逃げを許さない口調で、ゆっくり問いただす。
「でさ、本題だけど。どーしてセス君をさらったのかな? 分かってるよ、司をおびき出すためだって事は。俺らが知りたいのは、むしろそっち」
「……頼まれたんだよ。暁月組の組長の跡取り息子を、捕まえてこいって、小乃組の奴らからな。何でかは知らねえ」
「……おのぐみとは?」
「ここら組で活動してる、でかい組だよ。そいつらに目えつけられるなんてな、司。で、司と仲良くなったセスをさらったってわけか」
リーダーが大きく頷く。樹希は、冷めた目でそっちを見た。しばらく考えていた昂先輩は、急ににっこり笑う。そして、片手をひらひら振った。
「よし分かった。ありがとーな。じゃ、また」
踵を返し、此処から立ち去ろうとする。樹希が、鼻を鳴らしながらそれに続いた。私も慌てて後を追う。倒れている男たちを避けながら進むのは、中々にグロテスクだ。後ろから、縄を解いてくれ、という非痛な叫び声が聞こえたが、完全に無視。縄はとてもきつく絞められたようなので、かなり暴れないとほどけないだろう。ようやく解けたとして、体、腕の痺れは酷いものだと思われる。まさに、想像を絶する辛さだ。えげつねえ……
赤い扉の前で、昴先輩と樹希は立ち止まり、後ろを振り返った。私も2人の横に並ぶ。昴先輩がいつもの明るいニコニコ顔を見せたと思った瞬間、鋭い、きつい目でリーダーを睨みつける。口角は上がったままだ。樹希の無表情も、相手を圧倒するような冷たさがあった。昴先輩の口が開く。
「今度俺らにちょっかいかけたら、これじゃ済まさないから。その時俺らが何するかは……」
「ご想像にお任せ、だな!」
暴れるのを一瞬でやめ、大きく頷くリーダーを尻目に、私たちは倉庫から出た。大きな音を立て、扉が閉まる。
「あ……!」
すぐそこで待っていた4人の中で、いち早く私たちを見つけたのは、セスだった。びくっと肩をすくめ、司さんの後ろに隠れる。見え隠れする蜂蜜色の瞳は、涙で潤んでいた。昴先輩が、セスに気付き、近づいていく。司さんは止めようとしたが、構わずにセスの前にしゃがんで、視線を合わせた。そして、ふわっと笑う。
「……司、いい兄ちゃんだろ? お前の為に死ぬほど走って来たんだ。こんな性格だけど……意外と優しいんだぜ?」
「…………知ってる」
昴先輩はとても満足そうに頷き、呟いたセスの頭をわしゃわしゃ撫で回した。司先輩のズボンをぎゅっと握るセスが、照れているように見えるのは気のせいか。
「……昴。色々とありがとな。セスも無事だったし……本当に良かった」
「おう、気にすんな! 俺らは茶会部だし、悩みを聞くのは当然だし。何より俺ら、ダチだろ?」
「というか、もう7時ですわ! さ、帰りますわよ!」
「……うん、帰ろう」
2年生の皆が歩き出す。私たち1年2人も、後ろについて歩いた。
「……なんかさー……茶会部って、いっつもこんな感じなの?」
「……そうだけど。オカルトマニアの人もよく来るし、生徒会のやつもたまに来る。依頼とかいっつもこんなんだし」
「……へえ」
今日は本当に疲れた。大きく伸びをすると、肩がボキボキいう。だが、不思議と足取りは重くなかった。むしろ軽いし、明るい。
そういえば、辺りはもうかなり暗い。
伸びのついでに空を見ると、深い闇に銀色の星屑が輝いていた。
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さて、この度、参照300を突破致しました!
これも応援して下さった皆様のお陰です。本当にありがとうございます!
上のURLは、友人作のつばめです。許可とってます。上手さはさておき、自分のイメージとかなり合致していたので、イメージ画としても使えます。
他のみんなもいつか、描いてもらいたいですね。
これからも、茶会部のみんなを、それからこの私めを、よろしくお願いします!