複雑・ファジー小説

Re: Into the DARK【オリキャラ募集】 ( No.9 )
日時: 2016/04/04 13:55
名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)

†第三話 聖軍†

 赤い光で、ハルは目を覚ました。

「……」

 朝日が、灰色にくすんだ街を赤く染めている。どこか遠くで、鳥の鳴く声がした。甲高いその声が、ハルの意識を覚醒させていく。
 ミカヅキが帰らなくなってから、丸二日が経っていた。その間ハルは、ほとんど寝ずに兄の帰りを待ち続けている。
 早く、早く帰って来て欲しい。そう願い続ける自分の傍に、もう一人の自分がいることを、ハルは感じていた。もう兄は帰ってこないのだと、お前はついに唯一の家族を失ったのだと、囁き続ける自分が。

「何で」

 何故自分ばかりが、こんな目に遭わなくてはならない? ハルは茫然と、そんな事を思う。不思議と涙は出なかった。その代わり、胸に大きな穴が開いたような喪失感がずっと居座っている。目をこすったハルの視界に、小さな麻袋が映った。

(……これ)

 金だ。兄が吸血鬼から稼いだ金。紐を解くと、眩いばかりの金貨が現れた。この輝きの対価は、兄の血。
 結局ハルは、ミカヅキを苦しめるばかりだったのかもしれない。嫌がるミカヅキを怒鳴り続けてでも、働くべきだったのかもしれない。戻ってくるはずのない両親のためだと言って、この街に留まらなければ良かったのかもしれない。王都へ行って、二人で汗を流しながら、疲れた疲れたと言って暮らせばよかったのかもしれない。
 血が出そうなほどに唇を噛んだハルはしかし、ふと顔を上げる。

 ……こぉんこぉんこぉん……。聞き慣れない、鐘を叩くような音。小刻みに続くその音に、ハルは表に出る。
 どうやら、音はネグルの方向から聞こえてくるようだった。

(こっちに近づいてくる)

 音はハルに近づくにつれ、カンカンというはっきりした音に変わった。その音と共に、人の声が響く。

「———れろ!———ネっ———」

 人の叫び声の直後、バキィ、という音がした。木が、無理やりへし折られる音。それをハルが認識したときには、二軒向こうの家が崩れ落ちていた。その振動に、食器が大きな音を立てる。

(嘘だろ)

 逃げなければ、逃げなければいけない、と切実に訴える心臓とは裏腹に、足は微動だにしない。唯一動いたハルの目が、家の前に立つ《その姿》を捉えた。
 ヒヒヒ、と下品に笑う《それ》は、焦らすようにゆっくり、爛々と光る薄い青色の瞳をハルへ向ける。

「……!!」

 その人間を見下した表情よりも、口の端から垂れる赤い液体よりも、《それ》を追って走ってくる人々の服に描かれた青い十字架よりも、その銀色に輝く頭髪が《それ》の正体をよく表していた。



 ———吸血鬼だ。



 気が付けば、ハルは左側の壁を蹴り飛ばしていた。そこにあるのはミカヅキが作った隠し棚のひとつ。ギイイイと悲鳴をあげながら、壁が半回転する。そして現れたのは、一振りの剣だ。反りの無いサーベルの様なその剣はミカヅキが愛用していたもので、鞘には十字架が刻まれている。王都の大教会の加護を受けた、いわゆる《聖剣》だ。
 ハルは聖剣を掴みとると、一息に刀身を抜き放つ。赤みを薄めた日光を反射して、白銀の刀身が輝いた。

「ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 ハルは目を見開き、吸血鬼へ聖剣を振りかぶる。聖剣を見ても顔色一つ変えない化物は、ひらりと剣をかわす。それに構わず、ハルは本能のままに剣を振り続けた。東方系の剣術はミカヅキに叩き込まれているが、形式など気にしている余裕は無い。

「お前らは!!!兄さんを!!!……返せ!!!」

 ハルは、胸の穴から湧き出る憎悪を、喪失を、悲嘆を、剣に籠める。ハルの持てる力全てを駆使して繰り出される剣はしかし、ひらひらとかわされる。反撃する気はないのか、吸血鬼は後退を続けるばかりだ。

「返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せえええええええええええええッ!!!!」

 ハルの横薙ぎをしゃがんで避けた吸血鬼は、いきなりハルの顎を掴んだ。その速さと、もう少しで顔の骨を砕かれそうな力に、ハルはただ茫然とする。

(敵わない)

 こんな化物には敵わない、と思った。静かに心を満たしていく絶望が、体の力を奪っていく。

(兄さんが帰ってこない家に———)


(僕の存在価値は無い)


 ハルの手から、聖剣が滑り落ちた。

Re: 【登場人物更新】Into the DARK ( No.10 )
日時: 2016/03/18 18:40
名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)


 ミカヅキの聖剣がハルの手から離れ、地面を叩く。
 それを理解しつつも、ハルは動くことは無かった。全てが夢の中の出来事のようで、現実味が無い。目の前に迫る水色の双眸にも、不思議と恐怖は覚えなかった。

 殺せよ、と言おうとして、ハルは自分が声を出せない事に気づいた。喉がいう事を聞かない。喉だけじゃない、全身が震えて止まらない。心では制御できない震えが、身体を縛る。体中が、目の前の圧倒的な存在から逃げたい逃げたいとわめく。

(僕は、生きたいのか……?)

 ハルは自分の問いに対する答えを持たなかった。頭の中で、自分の疑問だけがぐるぐるとまわり続ける。

(両親に捨てられたこの世界で?兄さんと暮らせないこの世界で?自分の家族を忌み嫌うものばかりのこの世界で?誰からも敬遠される、こんな酷い世界でも、僕は生きていきたいのか?)

 答えが出ないうちに、吸血鬼がハルから手を離した。青白いその腕が、大きく振りかぶられる。
 その手がとらえたのは、ハルの頭ではなく———鈍く光る刃物だった。

「!?」

 ハルの頭が現状を把握する前に、身体が宙に浮いた。

「無理に動かないで、体の力を抜くのん!」

 鼻にかかった幼い声をハルが認識したそのとき、ハルは『飛んだ』。

「ぅあっ!」

 そして今度は、二本の固い棒の上へ着地する。それは筋肉質な人の腕だった。決して軽くはないハルを易々と受け止め、地面へ立たせる。

「大人しくしてろよォ、坊主ゥ」

 無精髭を生やした男は呟くと、腰のレイピアを抜き放った。男はふかしていた煙草を吐き捨てると、背中を向けたまま言う。

「今日は副将がパネしかいねぇ、もう少し日が昇ればあいつは撤退する。それまで持ちこたえるだけだ、できるなお前ら?」

「もちろんです、将軍」

 そう答えつつ煙草を拾うのは、まだ少女の面影が残る女だ。腰に剣を帯びた女を先頭に、同じ制服を着た剣士たちが『将軍』と呼ばれた男の後ろへ並ぶ。

「私達は聖軍です、吸血鬼ひとり追い払えなくてどうするんです?」
「いい返事だ」

 女は周りの剣士達に素早く指令を飛ばすと、最後にハルに向き直った。

「貴方は動かないで、ここにいて」

 その力強い言葉と眼差しに気圧され、ハルは頷いた。それを見た女は満足そうに頷き返し、吸血鬼の方へ走っていく。

「パネ副将!……代わります!」
「さんきゅーなの、メリィちゃん!」

 パネと呼ばれた、桃色の髪をした少女と入れ替わるように、女———メリィは勢いよく剣を抜き放った。抜刀時の斬撃はかわされたが、次々と畳み掛けるように攻撃を続ける。その剣筋には迷いがない。
 吸血鬼が反撃しようと足を踏み出した瞬間、今度は『将軍』が鋭い突きを繰り出す。それを避けるために踏みとどまった吸血鬼に、再びメリィが斬りかかる。吸血鬼が腕を振りかぶれば、パネがその腕を短剣で切り落とさんとする。一人が吸血鬼を追い詰め、反撃の色が見えれば他の誰かがそれを阻む。

(これが、聖軍……)

 確かに今のところ吸血鬼は傷を負っていないが、この人達は決して、噂で囁かれる能無しなんかではないと、ハルは思った。
 人間ですらない強大な力を前にしても一歩も退かぬ剣士たちは、舞うように戦う。その姿はどこか美しく、儚い。

「チッ」

 剣が空を切り裂く音の中、小さな舌打ちが聞こえた。
 吸血鬼は高く跳躍すると、ハルの家の屋根に立つ。

「軟弱な人間共が」

 毒づいた吸血鬼は、つい、と踵を返す。その動作は決して野蛮ではなく、ある種の優雅ささえ覚える。人間にはあり得ない速さで逃げ去った吸血鬼が見えなくなった時、ハルは膝から崩れ落ちた。
 先程の女剣士が駆け寄ってくる前に、ハルの意識は闇へと消えた。

Re: 【登場人物更新】Into the DARK ( No.11 )
日時: 2016/04/17 21:41
名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)

 ———甘い、花の匂い。
 それは嗅ぎ慣れぬ匂いだった。甘ったるく、それでいて不快を感じない不思議な香りが、ハルの鼻腔に満ちる。

(何の花だろう)

 ハルは、ぼんやりとそんな事を考える。決して花に詳しいわけではないが、その不思議な香りに興味を持った。

(今度兄さんに聞いてみようか)

 ミカヅキの顔を思い浮かべた瞬間、ハルの意識は瞬時に覚醒した。
 目を見開き、飛び起きる。視界に飛び込んできたのは、自宅の白い壁ではない。くすんだ濃い緑色の壁紙だ。ハルの急な動きに、簡素な造りのベッドが不満げな音をあげた。

「ここは、……」

 ここはどこだ、とハルが自問する前に、部屋の扉が開いた。ゆっくりと入って来たのは、あのメリィという女剣士だ。メリィは上体を起こしたハルを見ると、はっと目を見開いた。

「大丈夫なの!?」
「ここは、どこですか」

 ハルが間髪入れず尋ねると、メリィは手に持っていた盆をテーブルに置き、ハルのベッドに腰を下ろす。腰に引っ掛けた小振りな剣の鞘には、青い十字架が彫られている。

「……その前に、あんたの名前を教えてくれる?」
「ハル。姓は無い」

 ハルは、メリィの瞳を真っ直ぐに見つめた。気の強そうなつり目が、ハルの瞳を見つめ返す。

「メリィよ。メリィ・エスペラール。聖軍の第一部隊隊長」

 エスペラール、という姓に、ハルは聞き覚えがあった。

(大教会の孤児院……)

 確か、王都の大教会の孤児院の名前が、エスペラールと言ったはずだ。
 メリィはそのことには触れず、質問を続ける。

「あんたの事を教えて欲しいの」
「何故?」

 ハルが聞き返すと、メリィは少し身を乗り出した。ハルとの距離が一気に縮まる。

「聖軍の将軍が、あんたを欲しがっている」

 メリィは至極静かに、言葉を並べる。

「給料は小遣い程度しか出ない。でも、家と食事、そして武器は国から与えられる」

 代わりに、とメリィは一度言葉を切った。ハルは自分の中で、何かが動き出したのを感じた。その原動力は憎しみかもしれないし、哀しみかもしれない。少なくとも、胸に開いた空っぽな穴からきていることは明らかだった。

「代わりに、世界のために戦って欲しい。———世界のために、あんたの命を捧げて欲しい」

 重い響きに、ハルはしばしの間黙り込む。
 口から漏れ出したのは、ハルの素直な感情だった。

「こんな世界のために、命なんてやれない。でも、」

 メリィは静かに、ハルの言葉を待つ。その眼差しは鋭いが、内に秘める優しさも感じさせた。

「でも、兄さんのために、貴方たちと協力することはできる」

 ハルが言い切ると、メリィは神妙な顔をした。どう答えればよいのか決めあぐねている様だ。そのとき突然、男の野太い声がした。

「随分と偉そうな新人だなァ?ん?」

 開け放たれていた扉から煙草の煙が漂ってきて、ハルは顔をしかめる。

「将軍……!」

 メリィは直立不動の姿勢をとるが、それには目もくれず『将軍』はハルの前に立つ。
 改めて見れば、やはり、かなりの長身だ。決して太ってはいないが、大岩のような威圧感がある。
 男が着ているのは、メリィと同じ青い十字架がデザインされた制服だ。しかし、男の方にはくすんだ金色のバッジが添えられていた。作られたときには黄金の輝きを放っていたのであろうバッジには、いくつもの傷が刻まれている。
 男は煙草を指に挟み、ハルの顔を覗き込む。そこだけ澄んだ色をした、藍色の瞳がハルに迫った。男の体に絡みついた煙草の匂いに、ハルは顔をしかめそうになる。

「お前、戦いたいか」

 臭い息は生暖かく、ハルの鼻をなでる。
 荒々しい山男のような風格とは裏腹に、その問いはどこか優しく聞こえた。

「戦いたい」

 自分の口から出た言葉に、ハルはぐっと拳を握った。

「僕は、兄さんを救いたい」

 ハルが言い切ると、『将軍』は上唇を舐めた。そしてじっと、品定めするようにハルを見つめる。

「……お前の兄の名前は?」

 突然の質問に、ハルは体の力を抜いた。

「ミカヅキ。姓は無いと思う」

 ハルの答えに、『将軍』は眉を上げた。ほう、と灰色の息を吐くと、メリィに短くなった煙草を渡す。

「俺はラドルフだ。聖軍の総指揮を執る将軍を任されている。俺のことは将軍と呼べ」
「それって、」
「お前は副将軍の世話係をしろ。説明は明日の朝だ、それまでに体を休めておけ」

 ラドルフは捲し立てるように言うと、すぐに踵を返す。

「僕はここに居ていいのか?」

 ハルがその背中に問いかけると、ラドルフは首を捻り、ハルを見下ろした。

「お前が、ここに居たいのならな」

 ラドルフの煙草を捨てたメリィは、ハルに向かってにやりと笑った。

Re: 【吸血鬼】Into the DARK ( No.12 )
日時: 2016/03/20 20:24
名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)


 聖軍の朝は早い。ハルがベッドの中で動き出した頃にはもう、テーブルの上の朝食は冷めきっていた。
 お世辞にも豪華とはいえないそれをかじるように食べていると、部屋のドアが乱暴に開け放たれた。将軍のラドルフだ。

「いつまで朝飯食ってんだ新入りィ、立て。俺についてこい」

「これはどうすれば」

 ハルが食べかけのパンを指さすと、ラドルフはあ゛ぁ? と不満げな声を出した。

「……歩きながら食べろ。服はそのままでいい」

 言われて改めて見れば、ハルは汚れた白のシャツとよれよれのズボンを着ていた。ハルのものではないし、サイズがかなり大きい。シャツなどは、まるでワンピースのようだ。

「何やってる。早く来い」

 不機嫌そうな声に、ハルは慌てて部屋を出た。右を向くと、ラドルフが片足を踏み鳴らしている。そちらへ駆けていくと、ラドルフはすぐに曲がり角へ消えた。
 必死に追いかけるハルに対して、ラドルフは煙草をふかしながらすいすいと廊下を進む。
 壁に所々青い十字架が描かれていることや聖軍の《将軍》がいることから見て、ここは聖軍の施設なのだろう。しばらく走ったハルは、あることに気づいた。

(窓が無い)

 今までにひとつも、窓が無いのだ。歩きざまに壁紙に触れてみれば、ひんやりとして湿っている。

(地下なのか……?)

 ハルが考えを巡らせていると、ラドルフの足が止まった。簡素な木の扉の向こうには、複数の人影が見える。

「探せば見つかるものねん、結構新しい服ねん」
「仕事は終わった。俺は部屋に戻る」
「ラルムはいつも退屈な人ねん。もっと楽しくやればいいのに」
「お前とは違う」

 ラドルフが部屋に入ろうとしたとき、同時に背の低い男が部屋から出てきた。

「将軍」
「済まんなラルム、王都から帰ったばかりだってのに」
「いい。あの馬鹿ひとりには任せられない」

 無表情のまま言った男は、ふとハルを見上げた。その目は態度と裏腹に丸く、幼い子供の様だ。

「誰?」

 そう言った割には興味がなさそうな男に、ラドルフは親指でハルを指す。

「昨日言った新入りだ。ハルという」

 ふうん、と呟いた男は再びハルを見上げた。ハルは決して長身ではないが、男の金髪はハルの顎あたりにある。

「俺の名前はラルム。聖軍の死神」
「死神……?」

 ハルは首を傾げたが、ラルムは構わずその場を後にした。

Re: 【吸血鬼】Into the DARK ( No.13 )
日時: 2016/03/23 00:15
名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)

「……あいつは可愛げがねえなァ」

 ラドルフが白く濁った息を吐くと、部屋の奥から明るい声が響いた。

「そんなことないのん!ラルムはよく見たら可愛い顔してるのん!」

 その舌足らずな声の主は、部屋の奥に立つ小柄な少女だった。髪は奇抜な桃色で、顔の横でふたつにまとめられている。

(この子は……)

 確か、ハルが吸血鬼に捕まった時、ハルを助けて『投げた』少女。
 見れば見るほど、あの時のことが夢のように思えてくるくらいに細い手足だ。ラドルフやラルムの着ている制服ではなく、派手なミニドレスを着ている。人形の様に愛らしく幼い顔は、装飾過多な服によく合っていた。

「あ、新入りくん起きたのねん!」

 少女はハルに目を向けると、天真爛漫な笑顔を見せる。花が咲いたような笑顔にハルが見惚れていると、少女は甲高い声で言った。

「パネはパネって言うのん!聖軍の副将軍なのん!」
「……え?」

 思いがけない言葉に、ハルは意表を突かれた。吸血鬼と戦っていたから聖軍であることは分かっていたが、副将軍だなんて。
 ハルがラドルフを見上げると、彼はひとつ頷いて頭を掻く。

「こいつは正真正銘副将軍だ。お前も見ただろ、こいつが戦うところ」
「まあ……」

 確かに見たのだが、あのときの記憶は少々曖昧になっている。しかし、パネの桃色の髪ははっきりと印象に残っていた。

「こいつはなァ、聖軍で一番強いんだ」

 少し自慢げなラドルフの言葉に、ハルは再び驚かされた。
 思わず、目の前の華奢な少女を見つめてしまう。リスの様に丸い目は、髪と同じ桃色をしている。どう見ても13歳か14歳くらいの派手好きな少女にしか見えない。
 ハルがよほど分かりやすい表情をしていたのか、パネはひゃひゃひゃ!と笑った。

「新入りくん面白いのん!パネ気にいったのん!」

 パネはそう言うと、いきなりハルへ飛びついた。その動きは信じられないほど速く、ハルの体はバランスを崩す。ハルが倒れそうになった時、パネはハルを両手で軽々と持ち上げた。

「……え!?」

 戸惑うハルをよそに、パネはハルを頭上に持ち上げる。

「パネは新入りくんがお世話役で嬉しいのん!」

 ハルを持ち上げたまま、パネは明るく笑う。

「これからよろしくなのん!」

 今度は心底嬉しそうに、ひゃひゃひゃ!と笑ったパネを見て、ハルは目を瞬かせた。

(この人の、世話役か……)

 何だかとんでもない仕事を任せられた気がするが、それでもいいかとハルは思う。聖軍で最強の人の近くに居られるのだから、すぐに強くなることができるかもしれない。

(まあ、飽きることはないだろ)

「あ、新入りくんやっと笑ったのん!」

 言われてみて、ハルは自分の口角が上がっていることに気がついた。演技ではない笑いは、久しぶりかも知れない。
 また笑った!という、パネの楽しげな声が部屋に響いた。