複雑・ファジー小説
- Re: 【吸血鬼】Into the DARK ( No.18 )
- 日時: 2016/04/09 13:52
- 名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)
第二章 ‐twilight‐
†第一話 兄の剣†
ラドルフがどこかへ去った後、ハルはパネから制服を受け取った。青い十字架がデザインされた、動きやすそうな服だ。ずっとワンピースの様な姿でいるのは恥ずかしかったので、制服の上着を羽織って、歩き出したパネを追う。
「空いてる部屋が無いから、部屋は相部屋なのん。……あ、残念ながらパネとじゃないのん」
「いや、え、はい……」
年下が上官だなんて何だか変な感じだと思いながら、ハルは敬語で答えた。パネは踊る様にくるくると回りながら、廊下を進んでいく。
「新入りくんはノリが悪いのん……そこも訓練が必要ねん!」
「はぁ」
(何だか会話の主導権を完全に握られている気がする……)
ハルはパネの世話役を引き受けてしまったことを、少しだけ後悔した。
「着いたのん、この部屋が新入りくんの部屋だのん」
パネは木製のドアを指さした。ドアには『07』という札がかかっている。
「新入りくんと、あと2人がここの部屋だのん」
「あの……僕の名前、ハルなんですけど」
「別に新入りくんでもいいのん!上官の命令には従うのん!」
そう言われると、部下には返す言葉が無い。
ぷくぅと頬を膨らませた上官を前に、ハルがどうしたものかと頭を掻いていると、
「どうしたんですかパネ副将」
『07』のドアが開き、金髪の青年が顔を出した。白い顔に、大きな翡翠色がふたつ並んでいる。
「あれっ、噂の新入りくん?」
「そうなのん、ハルっていうのん!ノリが悪いからしっかり教えてやって欲しいのん!」
再びパネが頬を膨らませると、青年は困った様に笑った。実の妹に向けられた様な、安心感のある笑みだ。
「分かりました、叩きこんでおきますよ」
だから安心してくださいと青年が言うと、パネは任せたのん! と答えて来た道を戻っていった。髪とミニドレスの鮮やかな色彩が、みるみるうちに遠ざかっていく。
「可愛いだろ、あの人。あれでも聖軍じゃ最強なんだぜ」
「……さっき将軍から聞きました」
「あ、そうなの?」
はは、と笑った青年はハルを部屋の中へ招き入れる。
この部屋は先程までハルがいた部屋と同じ構造をしていた。四角い部屋の壁際に、2つのベッドと細長い箪笥が備え付けられている。他の部屋と同じく、窓はない。
青年はハルへ大きな手を差し出す。
「俺はクロードだ。聖軍のいわゆる一般兵ってやつ。この部屋に住んでるわけじゃないが、休憩中はこの部屋を使ってる。よろしくな!」
「ハルです、よろしくお願いします」
ハルがクロードの手を取ると、クロードはその手を強く握った。
「やっぱ固いなー、ハル。こりゃあ本当に会話の訓練しなきゃいけないね」
「……そうですか?」
「だからそういうところが固いんだって!」
困った様に腕を組むクロードを前に、ハルがまたどうしたものかと考え込んでいると、
「帰ったぞ」
木製のドアが再び開け放たれ、岩の様な大男が現れた。
少し体を屈めて部屋に入った男は、ハルを見、ぎこちない笑みを浮かべる。しかしその表情は長くは続かず、話し出すとすぐに無表情に戻った。
「お前が新入りか?」
「はい、ハルと……言います」
「リーネル・アクレシオだ。アレクでいい」
上から見下ろされるハルはその威圧感に身をすくめる。盛り上がった筋肉のせいで、聖軍の制服ははち切れそうだ。アレクはまた口角を歪ませるが、すぐに無表情に戻る。
(不器用な人なのかな……)
アレクはハルの横を通り過ぎると、左側のベッドに腰を下ろした。
ハルが突っ立っていると、クロードがぱんぱんと手を叩く。
「まあ、なにはともあれ……」
「ようこそ、聖軍へ!」