複雑・ファジー小説
- 第1話 patr1続き ( No.7 )
- 日時: 2016/04/08 11:40
- 名前: 囚人D ◆7cyUddbhrU (ID: 9/n2KZgq)
彼らの任務はいたってシンプルである。東京エリア1〜4の巡回、警備。及び、緊急事への対処。そして、本部への連絡。ただそれだけだ。
現在ゴウが巡回している『A1-C(エリア1のC)』と呼ばれる場所は、東京エリアで最も被害があった地域にあたる。かつては大きなビルが立ち並ぶ本国最大の都市だったのだが、今となっては見る影もない。ゴウにとってここは、静寂が支配する”瓦礫の山”に過ぎなかった。ゴウは先ほど蹴とばした石を足先で遊ばせながら、辛うじて形を残している街路の上を歩く。
「この間の——いや、あれから一ヵ月になるんだっけか? の、”東京エリア掃討作戦”。その残党狩りっつっても、最後にバケモノ共を相手にしたのもかれこれ2週間前の話だろ?この辺りにはもう居ねーだろ」
オッサンになかば愚痴をこぼすように言いながら、ゴウは自分の腰に差してある一振りの棒、もとい『剣』を見やった。ここ数週間、コイツの出番はない。これの出番がある方がよっぽど嬉しいと考えているが、ゴウの考えとは裏腹に、東京は今恐ろしいほど平和だった。静寂が何よりもそれを物語っている。
「いや、分からんぞ」
しかし、オッサンにとっては何かが違ったようだった。オッサンはゴウの言葉を否定した後、いつになく真剣な様子で口を開く。
「おかしいとは思わんか。たった一ヵ月前にバケモノの巣窟だった東京を解放したばかりだというのに、この静けさだ」
まるで奴らがこちらの隙を伺って息を潜めているように感じる。と、オッサンは言った。
しかし、オッサンの警戒を促す言葉も、ゴウにはただの杞憂にしか聞こえなかった。それを聞いたゴウは半ば呆れた様子で「けっ」と短く声を漏らす。
「オッサンはいつも考えすぎなんだよ。オッサンがんな事言ってるから、この任務から外されねえんだよ。なぁ? ”隊長”さんよォ」
「ははは、残念だったな。恨むんなら俺の班に配属になった己の運命を呪うがいいさ」
厭味ったらしいゴウの言葉を聞き、隊長、もといオッサンは聞き流すように豪快に笑った。”俺が本部に東京エリアの警備を担当させてくれ、と言っているんだからな”——オッサンがそう言うと、ゴウは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「おい、ちょっと待てオッサン。いつまでこの任務続けるつもりだ?」
「さあな。奴らが地上から消えるか、俺の気が済むまで、だ」
「はぁ!? ふざけんじゃねえ!」
オッサンの言葉にゴウは思わず叫んだ。
自分たちの班の隊長であるのオッサンの決定は、彼を説得でもしない限り、部下であるゴウに覆せるはずもない。そして、このオッサンと言う人物がとんでもなく真面目で、頑固であることは誰よりも知っていた。冗談は通じるが、基本的に一度決めた事に対する説得には応じないだろう。つまり、ゴウはこの先も”いつ終わるかもわからない任務”を続けねばならなかった。