複雑・ファジー小説
- Re: 【長編】花が咲く ( No.2 )
- 日時: 2016/04/03 04:27
- 名前: ゆり ◆Qd6XA/vkyQ (ID: fMPELWLk)
1話「伝説の二人」
その「噂」も、昔からずっと存在していたらしい。ただ、正確な情報は誰も持っていなかった。
そんなたくさんの噂が飛び交う、私立碧南高校に入学したのは、つい数ヶ月前の事。
昔は、いろいろと不穏な出来事が勃発していたらしいこの学校だが、数年程前に学校側が思考を変え、大規模な学校改革を行った。生徒の自立性を継続させる為、また寂れた学び舎自体を改革するだの、そういった運動があったらしい。
まぁ、これもあくまで噂なので、どこからどこまでが本当なのかはわからないけど。
人の噂も17日というが、それが根本、つまり俺らが通う学校が舞台ならば話は別だ。
だいぶ尾ひれ…というよりも金魚の糞が付きまくって、まったくの別話が出来上がってるかもしれないけど、生徒たちがこの話題について飽きる事はなかった。
俺はというと、正直そこまで噂には興味がなかった。噂はあくまで噂。そんな風に思っていた
でも、あまり治安が良くなかったのは事実らしい。
数年前は、全国的に学校が荒らんだ時期だった為、特別碧南高校の悪行が目立っていた訳ではない。それでも、生徒の一人が情報窃盗で逮捕されるだの、教師が自殺するだの、不穏な糞がこべりついてしまっているようだ
一見現実味のある事件だけども、ただの噂だ。好奇心によって作られた虚像
でも、あの「噂」だけは、妙に現実味を帯びてなくて、だからこそ逆に興味を引いたんだ
始めにこの話をしてきたのは、唯だった。
■
碧南高校は中高一貫であり、基本的に校舎は繋がっている。よって、ほとんどの人が6年間同じ人たちと同じ空気を過ごすことになる。
外部受験で入った俺は、一人だけ浮いてしまわないか心配だったけど、杞憂のようだった。中学は小規模だが、高校からは外部生の入学により規模が圧倒的に広がる。
今では、仲の良い友達にも恵まれ、そこそこ順風満帆な学校生活を送っているのではないかと思う。
俺が噂を数年遅れで聞いたのは、ある日の放課後だった
「康はさ、伝説の二人って知ってる?」
唯が、お気に入りのいちごミルクを飲みながら聞いてきた。
教室には、俺と唯を除いて誰もいない
中学からこの学校に通う唯からは、 今まで散々学校の不穏な噂を聞かされていたが、今回は初めて聞く単語だった。
「知る訳ないじゃん、てかそう知ってて聞いたんだろ?誰その人たち?」
「それがよく知らないんだよなぁ。先輩の話によると、卒業間際にすっごいことをしでかして伝説を残した二人らしい」
「…なんでそんな曖昧なのに、伝説として、しかも噂として残ってるの」
すっごいことって。もう少しマシな情報はないのか?
「そういえば、康は知らないな〜って思って。でも、詳しくはよく知らないんだ」
「なんだ…本当に何も知らないのか?伝説残したってくらいだから……生徒会長だったとか、部活で全国大会行ったとか、そういうレベルじゃないんだろ?」
そもそも、うちの学校のスポーツは全くと言っていいほど貧弱だ。クラブや部活に力は注いでいない。
「んー、全国大会…?そういう話は聞いたことないけど…えーと、そういうのじゃなくて、もっと規模のでかい、いうならば社会問題てきな」
まったくもって意味不明な事を言う。唯の事は友達として好きだけど、たまにこういう曖昧な言い方をするところが苦手だ。(いっておくが、恋愛感情はもっての他ない)
だからあんな誤解をされるんだ
「って、そのまま先輩に言われたことなんだ。もっと深く突っ込もうとしたのに、全然知らないって。だったらなんで、噂として残ってるんだーって話だよな」
「さぁ…?俺に聞かれても」
噂なんてってバカにしてたけど、突拍子もない噂に少し興味を持ってしまった。噂というのは結局、現実で起こりそうな事が脚色されて、妙にリアリティがあるから出回ってしまうんだ
でも、今回の事はどうなのだろう
「睦月はどうだろ、もうちょっと詳しく知ってるかな?」
「同じだと思うよ。何、言っておいてあれだけど、もしかして興味わいちゃった感じ?」
「お前はその話を聞いた時、何も感じなかった?胸が高鳴る…いや、そんな感覚じゃない。何かが俺に訴えかけてるんだ」
「いや、そういう厨二な感じいいから…。まぁ、でも確かに今まで疑問には思ってたけど、深く突っ込んだことはなかったなぁ…」
その時、廊下からいきなり声をかけられた
「お前ら、こんな時間に何してんの?」
声の主は────睦月だった。
- Re: 【長編】花が咲く ( No.3 )
- 日時: 2016/03/12 02:48
- 名前: ゆり ◆Qd6XA/vkyQ (ID: Kwou2MmU)
- 参照: 1話続き
「ん、あぁ、もうこんな時間か」
時計を見ると、短針は6を過ぎていた。窓からは、夕闇が現れていた。冬は、闇が近づいてくるのが早い
手元には、話過ぎたことにより、終わらすことのできなかった課題の山
えーと、これは唯のせいでいいんだよな?
「康はどうせ忘れていた課題やってるんだろうけど、唯はなんで残ってるの?」
「いやー伝説の二人について話してたら、いつの間にかこんな時間よ。そういう睦月は?」
「今日は生徒会がないから、図書室で勉強してた。辞典をロッカーに置きっぱだったから戻ってきたんだけど…」
流石優等生。俺みたいに、用がなければ家へ直行、ということは一切ないらしい。どうでもいいけど、俺は野球部の幽霊部員。ここ数ヶ月は行っていない
「…伝説の二人、ってなんだか懐かしいな。康は知らないよな、そういえば」
「そうそう!その話を唯から聞いてたんだけど、詳しくは知らないみたいなんだな。……俺、調べてみようかなって思うんだ」
「ふーん…?」
睦月は生徒会長 。成績優秀で冷酷な優等生オーラがぷんぷん漂っている。けど、周りを見下したりなんて絶対にしない。
それに、どちらかというとノリの良い性格で、割と突拍子もないアイディアを持ってくるのは睦月だった。
伝説について調べるって言ったら、睦月の性格上乗ってくると思ったのに、想定外の反応だ
「でも、そんな暇あんのか?居残り常習犯の神崎康くん」
「まぁまぁ。睦月も一緒に調べてみない?案外面白いことがわかるかもよ」
唯が間を割って言ってきた
ん…?唯もやる気なの…?
「そんなガキっぽいことやるわけないだろ…。っていうか来週期末テストあるし、やめとく。お前らも、そんなくだらないことやってないで勉強でもしてなよ」
「うるせーな。何をしようが俺らの勝手じゃん」
「まぁ別に俺には関係ないけどな。ほどほどにしとけよ」
なんだか、いつもよりマイナス5度くらい冷たい感じの睦月に多少の疑問は感じたけど、あえて突っ込まず、空を見た。既に闇によって覆われている
「そろそろ帰ろうぜ。外も暗くなってきたみたいだし」
「そうだねー。睦月も帰ろう」
「図書館に荷物置いてきちゃったし、俺は寄るところあるからいいよ。二人で先帰ってて」
「そう?じゃあ、また明日な」
「うん、バイバイ」
これが、舞台の幕開け
しょぼいかもしれないけど、でも俺は、久しぶりに高まる胸の鼓動に、ドキドキしていたんだ。
「ねー康!寒いし帰りにラーメン奢って」
「…しょうがないな」
でも、既に、この時から何かが歪み始めていたんだ