複雑・ファジー小説

Re: 不老不死は、眠れない。 ( No.13 )
日時: 2016/05/25 18:06
名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)

私は、彼が、何を言っているのかが、分からなかった。
ただ、彼はきっと苛立ちを覚えているのだろう。彼の声音は、それ程までに、冷めていた。

「おっさんには分かんのか?死にたくなる様な事を何十何百として経験した奴の気持ちが。死にたくても死ねない奴の気持ちが」

訳が分からなかった。
死にたくても、死ねない。この言葉は、どこか私の心にひっかかる。
そう思えば、彼は何故、死んでいないのだろう。
無論、失礼は承知だが、彼は、自由落下によって、加速する私、と激突したのだ。その時にかかる、Gは、計算せずとも、人を容易に殺す事が、可能だろう。
それだけでは、無い。彼は、トラックを、まるでハンマー投げの様に、振り回したり、投げたりしていた。
そんな圧力に、果して人類の肉体が、耐えられるのだろうか。
否。そんな訳が無い。
当然、必然、耐え切れずに、哀れな骨粉と成り果てる。
しかし、彼にそんな、様子は無い。
私の背中が、冷たい何かに、撫でられる様な、気がした。
恐怖。
私は、恐怖に、支配されていた。
怖いのだ。
目の前の、人間ーーーーいや、人外に、恐怖しているのだ。
そして、彼は、その声により、自分が異形だと言うことを、自白していく。

「首を吊っても呼吸ができた奴の気持ちが、腹を斬っても治る奴の気持ちが、飛び降りても死にきれない奴の気持ちが、毒を飲んでも気分が落ちるだけの奴の気持ちが、新幹線に轢かれてもまだ心臓が止まらない奴の気持ちが、千年以上生きても姿形すら変わらず寿命という終わりが無い奴の気持ちが、アンタに分かるのか?
わかんねぇだろ?俺はアンタがどこで死のうがどうでもいい。だがな、自殺しようとして助けられて、ありがとうございます?ふざけるなよ。それはそれ以外の何でもない俺への冒涜だ。約2013年前から未だに死ねない、俺への冒涜だ。そして、人生の一つのゴールでもある死への冒涜だ」

2013年前。それは、一体いつの話だ。明治や江戸所ではない。
きっと、彼は厨二病な、夢を見ているのだ。この目の前の異形は、頭が狂っているのだ。
そして、私の、その思考回路を保つための、妄言も、異形によって、砕かれた。

彼は、自分の、頸動脈を、素手で握り潰したのだ。
絶句する私を差し置いて、次の瞬間、その部分が沸騰した様に泡を立てーーーー妙に気味のいい音を立てて、破裂した。
そして、頸動脈はーーーー治っていた。

「アンタは、不老不死を、信じるか?」

そして、この後の事は、語れない。
私が自ら、墓に持って行くと、決めたのだ。
私は忘れる事は、無いだろう。
生まれて初めて出会った、異形の事を。