複雑・ファジー小説
- Re: 不老不死は、眠れない。 ( No.25 )
- 日時: 2016/08/20 23:04
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「ほ〜らヤマンバちゃん、そこにゴハンがいるぞ〜」
「お前……私をなんだとおもってるんだよ」
ムッと頬を膨らませるヤマンバちゃん。
さっきの台詞を繰り返してやろうかと思ったが、今は状況が状況なので黙っておく。感謝してくれたっていいんだぜ?
「……化け物、なんか気味悪いぞお前」
……ぐすん。キメ顔バカにされた。
……泣いてなんかないもんっ!茨!強い子だもんっ!
と、まあ冗談はここまでにして、さっさと目の前の問題に取り組まないとなぁ……。
「おばさん……」
「……あ、伏見さん……」
……コイツ、俺の事を怖いとかテレビで言ってやがったやつじゃねぇかっ……!
多少の錯乱くらいさせても問題無いな(問題しかねぇ……)前の恨みだBBA……。
「おいソプラ。血ぃ吸え」
「あら、じゃあお言葉に甘えて」
ソプラが口から八重歯を覗かせて、後ろからカプリと首筋に噛み付く。うわぁなんかエロい。
血を吸っていくとみるみる内におばさんはトロンとした表情になり、そのまま目を閉じた。
吸血鬼が血を吸うと、吸われた側には睡眠作用があるらしい。
「もういいぞ」
「……ふぅ、御馳走様」
別に良いけど口に血を付けて言う台詞じゃなくね?
しっかし……この血の海どうすりゃいいんだ?
……あ、良いこと思いついた。
「ソプラ、燃やせ」
「貴方の頭はおかしくてよ?」
「ちげぇよ。この血の海蒸発させろっつってんだよ」
ついでにてめぇの頭も蒸発しろ。
取り合えず以前俺の事をメディアに向かって根も葉も無い事をいいやがったおばさんは、洗濯バサミを頬に付けて放置。ついでに生ゴミをポストに詰め込んでやった。
〇
「おいテメェらいつまで居座る気だ」
「私、ドイツに帰るまではここ滞在してよ」
この野郎……。穀潰しめぇがぁ……。
「そんなんだから吸血鬼はドイツの医学科学薬学に負けんだよ」
「あんなの吸血鬼じゃなくてよ」
何故ジョジ〇ネタが通じるんだコイツ……さては漫画とか買ってやがるな?
畜生。社会格差ってやつは厳しいぜ。
「どっちにしろお前の布団はねぇ。
寒いぞ〜冬の部屋に布団なしはきついぞ〜」
俺は大丈夫だけどな!ざまぁみやがれ!
「ヤマンバちゃん、お前はさっさとお山に帰って三兄弟でも捕まえな」
「……お前、絶対山姥に変な印象しか持ってないだろ」
……いや、金太郎育てたりとかいい奴もいるっぽいけどさぁ……なんかこう、ヤマンバって悪役のイメージしかないし……。
てかあれだよな。初対面の奴を喰おうとした奴が言う台詞じゃねぇな。
言う台詞じゃねぇな。って台詞、今日何回言っんだ俺?
「あら、布団ならそこにあってよ?」
「お前は俺から布団すらも奪うのかぁ!」
「ええ」
……なにこの冷血にして冷酷な吸血鬼。
鬼だよ。ほんとにコイツ鬼だよ。吸血鬼だよ。結局鬼かよ。
「……なんか、お前可哀相だな」
……ヤマンバちゃんの気遣いが身に染みるよぉ。
あれ?なんか目から汗出てきた。ハハッ。俺どうした。
「うええん。ソプラが意地悪するぅ〜」
「「大の大人がすると気持ち悪いぞ(悪くてよ)」」
……俺の味方はいないのか。
「……仕方なくてよ」
と、ソプラがゆっくりと立ち上がる。ついに帰ってくれるのか!ソプラ!
と、俺が歓喜していたところ。ソプラが冷酷に、テーブルに札束を叩き付けた。
「宿代よ」
「はいどうぞ泊まっていって下さい」
やっぱりさ、人が困ってると助けなきゃいけないよね!うん!
〇
現在、俺は窮地に立たされている。
あのあと、ちょっくら布団を買ってきて、さぁ寝るかと思ったはいい。
そう、そこまではな。
何故俺はあのとき……。
ーーーーなんで一つしか布団を買わなかったんだ。
まず視界を左にずらしてみよう。
端麗な顔立ちのソプラが寝息もろくに建てずに静かに眠っている。金髪は夜の暗さでも綺麗に輝いている。
てかなんでコイツに未だに婚約者がいねぇかわからねぇ。こんな男ホイホイな顔なんだし一人や二人男がいると思うんだけど、コイツ恋愛経験ゼロらしいしなぁ。
まあ、ソプラはいいんだ。問題は……。
「……すー……ふぎゅぁ……ふみゅ……」
絶賛俺の布団の中で俺の首筋に噛み付いてくるヤマンバちゃんだ。しかも寝ながらやってるのがすげぇ質悪ぃ。
ちょっ。血ぃ出てる血ぃ出てる。らめぇ!噛んじゃらめぇ!
ほら、なんか漫画とかだとこういう時って、いい香りがするとか、胸の感触がどうのこうのとか、そういうのあるじゃん?あれ寝てる方に言ったらただのセクハラだからな。
ヤマンバちゃんの髪の毛からは俺が使ってるのと同じ、そこまでいい香りでも無い微妙なシャンプーの匂いと、噛み付かれた首筋から仄かに漂う鉄分の臭いが混ざり合って気持ち悪いハーモニーを奏でていて今にも俺の鼻は死にそうだ。
そして胸には微かだが仄かに柔らかい感触があるはあるが、これ殆ど人体の柔らかさと変わんねぇ。絶壁じゃねぇか。
ついでに言うとそんな感覚より徐々に増していく、主に首筋に走る痛覚の方が百倍程大きい。
なんか違うくね?これ。