複雑・ファジー小説

Re: 不老不死は、眠れない。 ( No.29 )
日時: 2016/08/29 19:47
名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)

俺こと伏見茨は絶賛苦悩中だった。
それは別に、卵が全部割れたとか、卵が全部割れたとか、卵が全部割れたとかの理由ではない。いやそれもあるか。
先程の場面を思い出してほしい。俺は全身がバラバラ所か粉々になっていた。
つまりだーーーー俺の服まで粉々になったんだ。
そしてーーーー俺が再生するのは肉体だけ。
さぁ問題だ。
日中、全裸の男が歩いていたらどうなる?

答え、お巡りさんのハートフルコミュニケーションが待っている。

どうすればいいんだ……あのオンミョウジーズの位置は分かってる。なんでかって?俺の人差し指が誰か一人についているからだ。
意味がわからないだって?じゃあ説明してやる。
俺の体が粉々になったとき、その粉々になった肉体が幾つかオンミョウジーズの奴に付いたんだ。
で、俺は粉々になった場合は、何処をどう治すかある程度任意で操ることができる。
で、俺は右手の人差し指以外をここで。人差し指だけはオンミョウジーズの連中の誰かにくっつく形で再生させたって訳だ。おかげで俺は今、やーさん見たいに人差し指を詰めた状態になっている。
因みに全身をオンミョウジーズの方で再生させなかったのは、流石に粉々になった粒の一つや二つで全身を再生するのは無理だったからな。
さて、ここまで解説したはいい。勝利への道筋も見えた。ヒロイン救出のストーリーも完璧。俺に足りないのはーーーー服だ。

おおっと、どっかの誰かが今隠れている橋の下に近付いてきた。やべっ!

「いや〜困ったわ〜」

それはこっちの台詞だ。

「あらどうしたの?」

「親戚が趣味でこんなの送ってきたんだけど……要らないしねぇ」

「これはちょっと……ねぇ」

「だからここに捨てようと思って」

そんな会話をしながらおばあちゃん達が何かを置いていった。
……もしかしたら服かも知れない。てか人の服を剥ぎ取るってどこの世紀末だよ。マイ〇ラはゾンビの着てた装備着るときあるけど。
段ボールを開けると、そこにはあった。
ーーーー衣服とは言い難いが、体に纏うものが。

「……これ、黒歴史がまた一ページ追記されたぞ……」








どうすればいいんだ……。
こんな緊急事態に放り込まれても私は何もできないぞ……。
私ーーーー病場璃子は廃屋の中でそう思った。
私は今、妖怪様の手錠とやらを掛けられている。どうやら呪術の類がかかっているらしくて、力が全く出ないんだ。
しかし、私以上に心配なのはソプラ姉だ。今、私は壁に倒れ込んでいるだけだが、ソプラ姉は日の当たるところで、銀のワイヤーで体を負かれて水浸しにされている。吸血鬼といえどここまで弱点を攻められては風の前の塵だ。
ソプラ姉はぐったりとしたままで、その顔はいつも以上に顔色が悪く、白いを通り越して青白い。
茨については心配してないぞ。アイツは大丈夫。
そして私達の近くに取り囲むようにいるのはーーーー陰陽師の奴ら。

「まさか吸血鬼だったとはなぁ!お陰で楽に処分できるな!」

「全くその通りだ。吸血鬼は強いが日中はただの人間よりも貧弱なものよ」

ふはははは!と大笑いをする陰陽師達に私は歯噛みすることしかできない。
プライドの高いソプラ姉なら反応するはずが、もうそんな気力も残ってないみたいだ。
……ここで終わるのか?
私、もう死ぬのか?
折角……折角……友達ができたのにか?
……好きな人が、できたのにか?
私の服をポタポタと零れる水玉が仄かに濡らす。
昔は、泣くことなんてしょっちゅうあった。
親に捨てられて泣いた。山を追われて泣いた。その山が開発によって皆が死んだのに泣いた。人を喰って、そんなことをしている自分に泣いた。
私の人生はずっと泣いてばかりだったぞ。
でも、最近。やっと幸せっていうものが、ちょっと分かったと思ったのに……ここで終わりなのか……?
せめて、せめて最後に、……アイツに…………あのバカに…………会いたかった……ぞ。

「おっ邪魔っしまーっす!」

その唐突な無遠慮過ぎる声が、部屋に反響し、私の悲しい雰囲気をぶち壊す。
……聞き覚えのある声だな……まさか!?
その扉のドアノブが、回される。

「だ、誰だ!」

陰陽師の一人の声に、ドアノブを回したまま、部屋に入らずに答える誰か。いや入れよ……。

「なんだかんだと聞かれたら!答えてあげるが世の情け!」

……ホント、こういうところアイツっぽいな……。

「世界の平和を守るため!愛と真実の悪を貫く!ラブリーチャーミーな不老不死!」

……でもまあ、アイツのこういうところ。

「伏見茨だぜぇっ!」

私は嫌いじゃない。

扉が開けられ、人影にしてはやけに図太いものが入って…………は?
……なんだ……これ。

周りを見渡すと、陰陽師達までもが口を開けて驚いている。
……私は何が何だかわからないんだが……。

「き、貴様ァ!」

「なんだ!この悪徳陰陽師!」

声は確かに茨だ。
だが、その身に纏っているものから茨の容姿は完全に隠れている。
と、いうか、あれ着ぐるみだろ……。





「何故ふ〇っしーになっている!」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!人が気にしていることを喋んなぁぁぁぁ!」

……気にしてるなら止めろよ……。

「梨の妖精だぞごるぁぁぁぁ!」

そのふなっ〇ーとやらの着ぐるみ(?)を着ている茨(?)がその姿で陰陽師の一人に向かってドロップキックを喰らわせた。

「馬鹿なのか貴様!」

「恥ずかしくないのか!」

「一生の黒歴史だぞ!」

「だから人が気にしてること言うなっしー!」

……なんか口調が変わったな。

「おのれオンミョウジーズめ……」

「オンミョウジーズとはなんだ!」

茨の台詞に反応する陰陽師達。なんかサッカーチームみたいな名前だな……。
茨がその着ぐるみの腕で陰陽師を殴り飛ばす。呪術による攻撃が飛んでくるが、茨ほ案外素早い動きで避ける。

「痛ってぇぇ!」

前言撤回。こけて頭を打った。

「よくもやってくれたなっしな……ギタギタにして殺るなっしー……!」

「ふな〇しーはそんなこと言わないだろ!というか転倒にいたってはお前のせいだろ!」

「黙れなっしー!血汁ブシャーッ!」

茨が体当たりで敵に当たり、頭突きを喰らわせた。喰らった陰陽師は鼻から鼻血を流した。
と、そこに呪術が殺到する。
おい!お前らの味方がいるんだぞ!?何やってんだ!
間一髪茨がそいつを何処かに投げて、茨はそこから謎のジャンプ力で弾幕を回避した。今骨が砕ける音が茨からしたんだが……。

「痛い……足が砕けた。
……お前ら……何やってんだ?」

ソプラ姉を引きずり日光の当たらない私の近くへと置く茨。
そして近くにしゃがみ込んで、ソプラ姉の体に巻き付く銀のワイヤーに手をかけながら喋りかけた。

「私達には妖怪退治という高等な義務がある。それゆえ多少の犠牲は致し方無い」

「今更取り繕うな残念エリート。何だその高等な義務(笑)って。俺には到底理解できん」

怒ったように声を上げるのは先程茨が残念エリート扱いしていた奴。流石にそれは可哀相だから止めてあげろよ……。

「黙れ!妖怪風情に理解など求めていない!」

「だから妖怪じゃねぇ……」

「あそこまで粉微塵にしてやったというのに蘇るとは……貴様何者だ……」

「だからただの不老不死だっつの」

「…………は?」

茨の発した台詞に、札を構えていたほかの陰陽師までもが静まる。
私も初めて聞いたときはこんな反応だったな……。

「……この反応もう飽きたんだが……。だから死なないだけの人間だ」

ところで茨。お前だいぶシリアスな台詞言ってるけど服装のせいで台なしって事に気付いてるか?

「ふ、ふざけるな!嘘を付くのも大概にしろ!さては貴様、手品師だな?
……な、ならば我等が負ける道理は無い!
ただの人間に負けるほど脆弱では無いわ!」

…………そうだな。確かに茨には負けないだろう。
でもそれは茨が死ぬ前提の話だ。終わりの無い戦い。永遠の寿命を持つ茨とそれをすれば、どちらが先に負けるかは目に見えているだろうが。

「確かに俺じゃ勝て無ぇけどよ…………てかなんで俺こんなバトル漫画的な台詞吐いてんだよ……?
……大体、陰陽師ってのは人間の味方じゃ無ぇのか?俺を人間って認めたの、お前だぞ?」

「黙れ!人間とも妖怪とも区別のつかぬ化け物が!」

その陰陽師は茨の事を、最初に茨に会った頃の私と同じような呼び名で呼んだ。
……私が言えた事じゃないんだが、今は茨の事を化け物なんて言いたくない。
だって、アイツは良い奴だから。私が出会ってきた中で、ソプラ姉と同じぐらい良い奴だから。

「化け物……ね。お前らヤマイバちゃんかよ。てか手品師設定どこ行ったし……。
まあいい、それとさっきの答えだ。俺じゃ勝て無い。ムス〇のラピュ〇王国何度でも蘇る作戦も俺にする気は無い」

「そうだ!貴様が我等に勝てる筈も無い!」

そう言い放つ陰陽師。確かにアイツラは大人数で、茨は一人。勝てる訳も無い。
…………ところで茨……流石にそれは可哀相だろ……。
私は茨のやっている事を見て、流石に酷いと思う。いや、別にあんな奴らだしいいか。



「じゃ、頼むわソプラ」

その言葉と共に、先程まで倒れていたソプラ姉がフラリと立ち上がる。
こちらからはその顔は窺えないが……絶対怒ってるだろうな。

「貴方達……随分と吸血鬼を侮辱して下さって……覚悟はよろしくてよ?」