複雑・ファジー小説

Re: 不老不死は、眠れない。 ( No.5 )
日時: 2016/05/01 20:12
名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)

私は雑誌の記者だ。
とは言っても、王道的でも有名でも何でも無い、三流も良いところのゴシップ雑誌の記者だ。
そして、私の仕事は単純な事。そしてーーーー最悪な事だ。
他人が成功したときは、それほど詳しく取り上げず、他人が転んだときは、仰々しく取り上げる。つまるところ他人の不幸や不祥事で飯を食う、そんな仕事だ。
私は悩んだりもした。こんなことを取り上げても良いのかと、こんなデタラメを書き綴って良いのかと。上司に訴えようかと思っても、クビにでもされたら、それほど裕福でも無い、私と妻と高校生の娘の家庭を、養う事はできなくなる。そして仕方が無いと言って、ロクでも無い記事を書き続ける毎日。
娘にとっては、私は決して誇れる仕事はしていない。しかし辞める行動力も無い。そんなゴミの様な日常で、ある日それは起きた。
私が書いたその記事が、一人の人を殺したのだ。
その人は、私の書いた根も葉も無い、事実無根の記事を読み、酷くショックを受けた後、ある建物から飛び降りたのだ。
そして、それは見計らったかの様に、私の目の前に落ちてきた。
頭と地面が奇怪な音を打ち鳴らし、バックコーラスの様に、後から続く首が折れる音。真っ赤に弾けるそれは、あたかもトマトを地面に叩き付けた様だった。
私はその光景が、目に焼き付いて離れない。その音が、耳に染み込んで拭き取れない。夜は眠れず、朝はただ、機械の様に動くだけ。私は自分と自分の人生に、嫌気が充満して堪らなかった。
そして、私は気付けば、あの人が落ちた建物の、最上階の、隅にいた。
そして、そのまま足から身を投げていた。
もう死ねる。妻と娘には申し訳ない気持ちでいっぱいだが、ようやく終わるという、ささやかな安心があった。
段々と、ズームアップしていくアスファルト、それは私に、人生の、カウントダウンを告げていた。
そしてーーーー

私は気付けば、人を一人、踏み付けていた。