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複雑・ファジー小説
- Re: ダスティピンク#502 ( No.2 )
- 日時: 2016/03/28 22:32
- 名前: ▲ (ID: MHTXF2/b)
#002
ヒールで階段を上るとなると、少し目立った音が響くので、遠慮がちに疲れた体を動かす。
時刻は夜の22時を越えた頃。アパートの住民たちは相変わらず静かである。
階段を上りきり、部屋がある階に到達すると、通路に人影。しゃがみこんで俯くその姿に見覚えがあるので、わざと足音をたてて近づいた。
顔をあげたその人物と、目が合う。みるみるうちに、その表情が明るくなった。
「都色ぉ! おっせぇよお前! 何、どこいってたわけ!?」
「言ったでしょ。高校の友達とご飯」
「あ、酒の匂い。良いな、呑んできただろ」
先程まで友人二人の酒のつまみの悪口となっていた彼は、けらけらと笑いながら赤くなった私の頬をするりと撫でる。たいして興味はないんだろうな。さて。
「こんなところでなにやってるの、千寿」
あらかた予想はつくものの、夜中に彼がアパートの一室の前で項垂れていた訳を問うと、千寿は忌々しそうにドアを見た。
「あー、そ、聞けよ! 三十分くらい経つぜ、もう」
「千」
そのタイミングで部屋のドアが開き、怒った顔がぬるりと出てきた。
げ、と千寿。
「都色に告げ口をするな。おかえり、都色」
「ただいま、アユ」
一変してにこりと笑い、私を見た彼女を怒らせるようなことを、きっと千寿はしたのであろう。こんなことはしょっちゅうであり、私ももう慣れたもんだ。
「悪かったって。マジで」
「ごめんねアユ」
「なんで都色まで謝るの。しょうがないな、次はないよ」
都色に免じて、と彼女は千寿と私を部屋にいれた。
さして怒ってはいなかったのだろう。千寿に本気で怒れないのがアユなのだ。
部屋に入り、バッグをおいてから、お風呂へと向かう。
キッチンから、楽しそうな二人の声が聞こえる。
友人二人のものよりもずっと、落ち着くものだ。
酒で温かくなった息を感じた。
下らない一日だった。
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