複雑・ファジー小説
- Re: ダスティピンク#502 ( No.4 )
- 日時: 2016/04/06 20:18
- 名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)
#004
ビニール袋片手に帰宅した私と千寿を見たアユの第一声は、
「千、また都色に集ったの」
という明らかに怒気を含んだものであった。
密かに第一声を予想していた私は、ぴったりそれと同じものが発せられたので、若干満足した。
「んな怖い顔するなよ、若様」
「アユの分も買ってあるよ」
そーそ、俺が選んだんだよ、と得意気になる千寿に諦めのため息を吐いて、昨日のようにドアを開く。
スーツから部屋着に着替える私を尻目に、テキパキと千寿は宴会の準備を始めた。
「お仕事お疲れさま、都色」
「アユも、部屋の掃除ありがとね」
「良いの、仕事が休みだとなにもすることがないから」
脱いだスーツをハンガーにかけてくれたり、そういう気遣いができるアユは本当に良くできた女性だ。
それとまるで対極に生きるのが萬田千寿という男である。
私の金で買った酒だというのに、自分のもののように広げ、悪びれる様子は一切ない。
それに文句を言っても無駄だということは長い付き合いでわかっているし、何よりもそんな千寿に本気で怒りの感情を抱かない。これはアユも同じであった。
「三人で呑むの久しぶりだよな」
「そうだっけ?」
「都色がぜーんぜん、構ってくれないんだもんな。会社の連中とばっか呑みやがって」
不機嫌そうに唇を尖らせる千寿。子供みたいだ。
アユと視線を合わせ、そうだっけ?と首を傾げる。
そうだったかもしれない。
最近はこの部屋に帰ってくる時間も遅くて、ゆっくり二人と顔を合わせるのさえ久しい気がしてきた。
「それは、ごめん」
「まぁいいさ。お詫びにこうやって酒、奢って貰ったし」
ニヤニヤと笑う千寿に、ああ、してやられた、と笑った。
理由をつけられちゃあ、しょうがないよね。
三人で小さなテーブルを囲み、缶を開ける。
穏やかな夜を堪能して、三人で眠りにつく頃にはもう、とっくに日付は変わっていた。