複雑・ファジー小説

Re: ダスティピンク#502 ( No.5 )
日時: 2016/04/10 16:53
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#005


「一緒にご飯、どうかな?」

相変わらず親しみやすい笑みを浮かべ、私の前に表れたのは昨晩の帰りに私を呑みに誘った同僚だった。

お腹減っていないから、とさりげなく断る。
何度か昼休みに声をかけられ、そのうちの何度かを同じ理由で断ってきた。
断られることを予想して、今日は軽食を持ってきたようである。
ナチュラルに隣に腰を下ろしてきた。

「昨日は、ごめんね」
「何が?」
「んー、というか、今まで、ごめん」

だから、何が。
立て続けにとんでくる謝罪。鬱陶しいな。
この男は、別に嫌いではない、程度の認識なだけで好感度が高い方ではない。
少々、鼻につくところがある。
私が若干イラついていることを察知したのか、口を開いた。

「そのー、舟引さんのこと、えっと、好きだったんだけど」
「……あー、うん」
「やっぱ気づかれてた?」

頷くと、あちゃあ、と声を出して額を押さえた。
バレバレだったけどな。というか、バラすつもりなんじゃなかったのかな。そうやって意識させるもんじゃないのかな。

「呑みとか、付き合ってくれて、ご飯も……それでちょっと調子乗ってて。イケるんじゃないかな、とか思っちゃって」

缶コーヒーを啜りながら、話を続けているが、落ち着きがない。そりゃあそうか、これも、告白みたいなものだもんね。
それを黙って聞いていた。

「……舟引さんに彼氏がいるって知らなくて、しつこくして、ごめん」
「彼氏?」

思わず口にすると、ばつが悪そうに視線をさ迷わせていた彼が、私の方を向いた。
ばっちりと目が合う。

ぱちくり、と瞬きをすると、間抜けな声を彼は発した。

「? 昨日の、黒いシャツの、」
「え? 千寿?」
「あ、え、うん」

お互いに首を傾げる。
なんだこの状況。

「彼氏じゃないよ」

ぽーんと無造作に投げ出された言葉。
彼は数秒間固まり、困ったように笑った。

「え、じゃあ、何、諦める必要ないの?」
「そうなるかも」

ってかその返答は、ちょっと、期待するよ。彼は呟いて、今度は嬉しそうに、晴れやかに笑う。

その隣で、やっぱりお腹減ったかもな、なんて思いながらぼんやりしていれば、昼休みなんてすぐ終わるのである。