複雑・ファジー小説

Re: ダスティピンク#502 ( No.6 )
日時: 2016/04/16 22:07
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#006


前にもこんなことがあったかな、と遡ればあるような気がする。
高校のときの話か。
自由気ままに生きる千寿を許して、千寿もしょっちゅう私にちょっかいを出してきて、よく一緒にいるものだから、恋人と勘違いされた。
この前会った二人の友人にも、高校時代、付き合っていると思われていた。弁解に時間がかかったことを覚えている。
だらしがない千寿のことを気遣う私を、恋人でないなら母親のようだ、と言い出し、千寿の男友達にはお母さん、と呼ばれていた。
いやはや、懐かしい話である。

昼休みの出来事をぼんやりと考えながら午後の仕事をこなして、帰路につく。
今夜は同僚が残業だったので、何かに誘われることはなかった。

他人から見れば、恋人。
不思議な感覚だ。
私は千寿をそんな風に見たことも、感じたこともない。異性として思っていないのだ。
酷い話のように思えるかもしれないけれど、千寿の扱いはその程度でいい。それを彼は望んでいるだろうし。
大切にされ過ぎると、きっと彼は煩わしいと感じるだろうし。

それに。

軽い運動のために、今夜もエレベーターを使わず五階まで上る。
三人で同居する一室、502号室のドアノブに手をかけると、あっさりと開いた。
廊下の奥の曇りガラスが明るい。
揃えられたパンプス、履き潰されたスニーカー。
二人とも、いるようである。

ただいま、と控えめに告げ、廊下を歩き、ドアを開く。

「あ、都色、おかえりぃ」

いつも三人で横になるベッドの上で、千寿が振り返る。
その下のアユは、声を出す余裕もないようだ。
二人とも、全裸。
久々に目にする光景に、眉をしかめる。

「……部屋でセックスしない約束」
「へ? そんなのしたっけ?」
「したよ」
「いつ?」
「結構前だけど」

千寿は忘れていても、アユは覚えていると思ったのに。
なんだか疲れがドッと溢れて、二人に背を向ける。

「え、都色ぉ、どこいくんだよ」
「……ちょっと散歩。帰って来る前に終わらせて」

扉を閉めようとすると、あ、ちょっと待って、と千寿の間抜けた声。
なに、と動きを止める。

「肉、食いたい。買ってきてくんね?」
「……はいはい」

それに、千寿には私ではない恋人がいるし。