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複雑・ファジー小説
- Re: ダスティピンク#502 ( No.7 )
- 日時: 2016/04/21 17:24
- 名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)
#007
春といっても、夜はまだ冷える。
ソファでゆっくりするつもりだったのに、二人のせいで引き返すはめになってしまった。
どこかの店に入り、一人で酒でも呑もうかとぶらつく。
お肉、忘れないようにしないと。
コンビニで買えばいいか。
口からするりと空気が抜けて、ああ呆れているのか、と思った。
私、呆れているのか。
あの二人に。
「あれ、舟引さん?」
突然声をかけられ、振り返る。
残業帰りの同僚だ。
足を止め、彼が追い付くのを待つ。
「お疲れさま」
「ありがとう。あれ、今帰り? 大分前に出たよね」
いつかのように二人でのんびりと歩く。
「一回帰ったんだけど、なんとなく落ち着かなくて、ぶらついていたの」
「そうなんだ。危ないよ、送っていこうか?」
「もう少し、時間潰したいかなぁ」
なんとなく空を見上げれば、ぽっかりと夜空に穴が開いたような満月。
仕事帰りなのに私の歩くペースに合わせてくれる。
「……君に会えて良かった」
「……は?」
ぽつりと呟くと、驚いたのか足を止める彼。
隣の彼を見上げると、気まずそうに眉を動かした。
「暇だったから」
「……うん。話し相手くらいにはなれるしね、俺も」
「そう。君と話すのは好きよ」
「あのね、舟引さん」
うん、と返すと、くるりくるり、目線を動かす。
見ていて飽きないこともあるけど、と付け足そうとしたけど止めた。
彼がようやく口を開いたからだ。
「俺、期待するよ。しかも、とっても」
返事はしないでおいた。
そろそろ帰ろう、と呟いて歩き出すと、彼が後ろからついてきて送っていくよ、と言ってくれた。
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