複雑・ファジー小説

Re: ダスティピンク#502 ( No.9 )
日時: 2016/05/16 12:28
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#009


「都色? どうかした?」
「あ、ううん。なんでもない。先行ってて」

教室の扉の所で友人が声をかけてきたので、我に返る。
は、として咄嗟に持っていた筆箱を机の中に突っ込んだ。隠すように。
その動作に彼女は首を傾げたが、それ以上何かを聞いてくることはなかった。

部活動の集まりのために、私と友人は朝早く登校する。その時間にはまだ、私たちの所属する部活の部員しかいない。しかも、荷物を置いてすぐに部室に移動するため、教室はとても静かだ。
それは今朝も例外ではなく、友人が去った今、教室には私しかいない。
しん、と沈黙した教室で、私は再び恐る恐る筆箱を取り出す。

持ち帰るのが面倒で毎日毎日机の中に置いて帰っていた、長い間使っていた筆箱。
布製で、細身。シンプルで使いやすく、気に入っていた。

それが今朝、いつものように取り出してみれば。
カッターで切り裂かれ、見るも無残な姿に変わっていたのだ。
中身も無造作に机の中にぶちまけられていた。
いつ、誰が、こんなことを。
昨日教室を出るときは何でもなかった。
私が昨日の放課後に部活に行ってそのまま下校し、登校するまでの間。ダメだ。まったく目星がつかない。
誰かの恨みを買ったか?
覚えがない。
知らない間に何かしてしまっただろうか。
ここは中学校。私を含めみんな思春期で多感な時期。些細なことがきっかけで人の負の感情に晒されることが、無いとは言い切れない。

胸がざわりとする。
なんだ、これ。
なんでこんな。

これから、悪化しないといいけどな。

不安を抱えたまま、私はそれを鞄の中に詰め込んで、部活に向かった。

廊下に出たときに、くすくすと笑い声がしたような気がしたけれど、聞こえないふりをして振り返らず走った。