複雑・ファジー小説

エメラルドグリーン ( No.18 )
日時: 2016/07/27 12:13
名前: 亜咲 りん ◆zy018wsphU (ID: hd6VT0IS)
参照: これは複ファなんだろうか……

 
 君と見た夢は、とても綺麗だった。

 エメラルドの海と、白い砂浜。そして、エメラルドの瞳と、白い肌。海風に君のブロンドの髪がさらさらと揺れて、波打った。

 まっすぐに海を見つめる君のエメラルドの瞳が、海に反射した太陽光を浴びてきらきらと輝いていたこと、今でもよく覚えているよ。

「綺麗……」

 ざぁん、と穏やかな海を見て、彼女はそう呟いた。
 それをきいて僕は、君の方が綺麗だよ、と口にしてしまいそうだったけれど、彼女の表情を見てやめた。

「ねえ。わがまま、きいてくれる?」
「君の言うことなら、なんでも」

 エメラルドの瞳がすっと細められ、そのまま彼女は目を閉じる。

「キス、して」

 乾いた唇が、そう、言葉を紡いだ。

「……いいよ」

 僕の黒髪と、彼女のブロンドの髪が、くすぐったそうにゆらゆらと揺れた。

 ゆっくりと顔を離していくと、彼女がまたふいに呟いた。

「ねえ。私たちが初めて出会ったときのこと、覚えてる?」
「ああ、もちろん」

 弱々しくこちらを見るだけの彼女の代わりに、力強く、頷く。

「この砂浜で、私は1人、貝殻拾いをしてた」
「そこで、旅行に来ていた僕と出会ったと。ここの砂浜には、綺麗な貝殻がたくさん落ちているからね」
「ええ。とても、とても綺麗な貝殻ばかり」

「けれど、それはどれも死んでしまったものたちだわ」

 ふふふ、と彼女は淋しそうに微笑む。

「貝殻を見ながら、私はよく思ったものだわ」
「……ちょっと」
「この貝殻は私だ、と」
「……駄目」
「貝殻を集める度、私は、」
「……やめろ」

「この貝殻と、同じようになっていくのかな、なんて。そう、思っていたの」

 彼女のぱさぱさの唇から零れた言葉は、僕のこころを打ち砕くのに充分だった。

「……絵里」
「さよなら、理央。あなたに会えて、良かった」

 彼女が小さく笑って、僕に手を振った。
 彼女はとても近くにいるはずなのに、なぜかとても遠くて……

「僕も、君に会えて良かったよ。けれど、僕は……」
「泣かないで。泣きそうになったら、貝殻を見て……」

「私はいつも、そばにいるから」

 そう呟いたきり、彼女は動かなくなった。
 僕の膝の上で、彼女は眠りについた。もう、2度と覚めない夢の中へと。





 君と見た夢のかたちは、きっと貝殻だ。
 エメラルドの綺麗な綺麗な貝殻。
 僕は、彼女が集めたそんな貝殻を見て、いつも思う。

 この貝殻はきっと、僕を生かすためにあるのだ。

 ならば僕は、彼女の貝殻<願い>の数だけ生きよう。
 数えるのも億劫だ。だから、とりあえず100年は生きてみようか____