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複雑・ファジー小説
- 傷逢 1 ( No.19 )
- 日時: 2016/07/30 14:50
- 名前: 亜咲 りん ◆zy018wsphU (ID: /PzKOmrb)
- 参照: 会話文が苦手……みんな会話しないでほしい……(おい)
歌声が余韻を残してすう……と空の彼方に溶けた。なにより、茶色の短い髪の少女からは、微かに喜びの音がきこえる。
これほど純粋に、感情のままに歌っている人を『きいた』のは、初めてだった。
無意識に、彼女に向かって、1歩踏み出した。しかし、伸びきった草を踏んだ音が意外に大きく、俺は慌てて立ち止まる。
かなり近くにいたのにも関わらず、少女はその音に気づいた様子が無い。
え、本当に気づかなかった?? もしかして、ここには滅多に人が寄り付かないから、犬の足音とでも思ったのか……?
なら。
「……あの」
クラスのみんなから低い、と評判の声が河原に響き渡る。あ、やべ。実はコンプレックスなのだ。
怖がらせてしまったか、と頭を掻いていると、突然の声に驚いたのか、ややあって、彼女は俺の方を振り返った。
大きな目がこちらを見つめる。明るい髪色の前髪はピン留めされていて、広いおでこが夕日に照らされて眩しく輝いていた。
「あ、えっと」
「……紫」
不審なものではないことを証明しようとしたとき、彼女がなにか呟いた。
「……あなたの声、とっても素敵な色をしていますね」
驚く俺に、手を後ろに組みながら彼女は突然そう言った。恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながら。
その姿に、なぜだか胸が高鳴った。
「……俺の名前は、安藤 真琴」
気づけば俺は、彼女にそう名乗っていた。
コンプレックスであるまるで女のようなこの名前も、このときは気にならなかった。
彼女は目をぱちくりとさせながらもふわりと微笑み、
「私の名前は、静 夏美」
と言った。
これが俺と彼女の出会い。後に、運命の相手となる、衝撃的な出逢いだった。
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