複雑・ファジー小説

もしも、心臓が宝石でできていたのならば ( No.26 )
日時: 2016/08/23 21:27
名前: 亜咲 りん ◆1zvsspphqY (ID: .YzEMtko)
参照: 速攻で書き上げた作品。

 
 もしも、心臓が宝石でできていたのならば。
 きっと、世界は平和だったのだろう。

 赤黒い心臓と、宝石で彩られたきらきらと光る心臓。どちらが醜いかは一目瞭然。
 ならば、宝石でできた心臓を持つ人間のこころは美しいに違いない。
 この世に優しい人が溢れていたのならばきっと、戦争など起きなかったのに。

 もしも心臓が宝石でできていたのならば、澄んだ血が身体中を駆け巡り、私たちは美しくなっていたに違いない。
 ドクドクと波打つ心臓は、私たちの身体中に血を巡らせる。
 この世に美しい人が溢れていたのならばきっと、差別に苦しむ人などいなかったのに。



 もしも、心臓が果実でできていたのならば。
 きっと、人々は飢えることはなかった。

 果実の栄養は身体の隅々まで運ばれ、私たちを元気にしてくれる。
 この世に元気な人が溢れていたのならば、病気なんてなかったはずなのに。


 もしも、心臓が鋼でできていたのならば。
 きっと、惑わされることはなかった。

 熱のない心臓は、欲に溺れることなく、いつも計算通り。
 この世に鋼のハートを持つ人が溢れていたのならば、誰も傷つかないのに。


 だけど、それが本当に正しいのだろうか。

 もしも、心臓が宝石でできていたのならば、押し付けがましい優しさで胸が締め付けられていた。それでも人々は美しさを競っていた。

 もしも、心臓が果実でできていたのならば、土地はやせ衰えた。

 もしも、心臓が鋼でできていたのならば、人々は他人を思いやらなかった。


 だから、もしも、心臓が心臓でできていたのならば。
 きっと、私たちは人間だった。