複雑・ファジー小説
- 雪降る喫茶店にて ( No.31 )
- 日時: 2017/01/02 12:32
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: r6RDhzSo)
- 参照: クリスマスSSより。
雪の降る喫茶店で、僕は人を殴った。クリスマスのことだった。
それまで僕はとても温厚な人間で、本気で怒ったこともなかった。だが、僕は人を殴った。
それまで温厚だった人間が、このように人を殴れるものだろうか。優しい人間は暴力を怖がる。だが、僕は人を殴った。
ここで、僕が人を殴った現場を見てみよう。赤黒い血が飛び散り、少々棚を壊してしまっている。お相手の男性は白目をむいて気絶しており、もう動かなかった。
店内はとてもシーン、となっており、どこか物寂しい。僕が人を殴ったからだ。
僕はなぜコイツを殴ったのだろう。まずはこの男について思い出してみることにしよう。
背の高い好青年。僕と男は知り合いだった。それなりに仲の良い親友で、良好な関係を築いていたはずだった。だが、僕は人を殴った。
そもそも、人が人を殴る理由は怨恨がほとんどだろう。ということは僕はこの男を怨んでいた、ということになる。殴るほどに。
怨恨=嫉妬という方程式も成り立つので、そう考えれば僕は彼に嫉妬していたとも言える。こんな男に、僕が??
確かに見た目は良いし、そこに嫉妬したのかもしれない。だけど僕もそれなりに容姿には自信を持っているので、それはないだろう。だとしたらなんだ。僕は辺りを見渡して、嫉妬の原因を探した。
ふ、と目線を止めた位置に、自分のスマホがあるのに気づく。急いで手に取って中を開くと、ホーム画面に可愛い女の子が映っていた。
嗚呼。全て、思い出した。
これは僕の彼女で、美人だ、お似合いだ、とみんなから言われる女の子だ。いや、女の子だった。優しくて、いつかは気立ての良い僕のお嫁さんになってくれるのだと思っていた。それなのに。
「お前……人の彼女を取りやがって」
動かない男に向かって、ぺっ、と唾を吐きかける。つまりは浮気をされたのだ、僕は。女って怖いな、と思った。
スマホをポケットに入れて、男をその辺に蹴飛ばしてから、水を打ったかのように静まり返る喫茶店に別れを告げた。後のことは知ったこっちゃない。
人が人を殴る理由なんて実にくだらないことで、恋心であったり、友情であったり様々だ。クリスマスの夜、一つの恋と、一つの友情が終わりを告げた。
僕は、人を殴ったのだ。