複雑・ファジー小説
- Re: 夢の中にいられたら ( No.3 )
- 日時: 2016/04/28 07:00
- 名前: 四つ葉 (ID: xPtJmUl6)
【第一話 夢の中徒然願う幸せを】
幸せなんて定義は、人其々だ。
しかし、私は思う。
この世の中に幸せを望んでいないものなど、いないのではないかと。
そう。
この世に───全宇宙にすんでいるもの達は、必ずしも自分自身の幸せを望んでいるのだ。
そして、その幸せを手にするために、対立する幸せを望むものを排除していく。
そんなことなら、私には幸せなど要らない。
☆☆☆☆☆
「はぁ………」
「溜め息ついたら、幸せが逃げちゃうよ?」
前の席にいる少女が後ろを向き、私の顔を覗き混んできた。
「いいでしょ、別に」
私はプイ、と顔をそらしてそっぽを向く
そりゃー、溜め息だってつきたくなるわよ、私も。
そういうと、前の席の彼女は、あーそうですか、と言いながら前を向いて頬杖をついて拗ねてしまった。
「どうせ、ミユキはヒナのこと、どーでもいいんだよねー」
「誰もそんなこと言ってないでしょ。あと、ミユキって言うの辞めて」
「何で?小さい頃はよかったのに」
「今と昔は違うでしょ」
私はヒナ───日向に突き放すように言った。
すると日向は、そっぽを向いて、頬をぷくーっと膨らませる。
ヤバイ、やってしまった。
私、美里雪は思う。
ヒナとは小さい頃から幼馴染みで、よく遊んでいた。
その頃の私の渾名が『ミユキ』で、美里の『み』と、名前の『ゆき』をくっつけたものだ。
で、そんな渾名呼び会うなかだった私たち二人は、今年、晴れて同じ高校に入学することができたのだ。
まぁ、それはよかったのだが、ヒナが私のことを大声で『ミユキちゃん』と呼ぶので、私も意地悪をして『美里って呼んで』と言うようになった。
それから、ヒナとのこんなやり取りは増えていくばかりだ。
- Re: 夢の中にいられたら ( No.4 )
- 日時: 2016/04/29 22:34
- 名前: 四つ葉 (ID: 7qD3vIK8)
「ヒナ、ごめん」
私がヒナに謝る。
ヒナは顔だけをこちらに向け、いつもの顔を区シャットした感じの笑顔で言った。
「いいよ!」
私は、力をいれていた肩から力を抜き、ふぅっと息を吐く。
「でもさでもさ、次から『ミユキちゃん』って呼んでも怒らない?」
私の机へと身を乗りだし、私の顔を近距離で見つめて来る。
真っ直ぐとしたヒナの瞳には、困惑した表情の私が映っていた。
「………だめ」
しばらく考えて、冷たく突き放すように言う。
「えー、なんでよー。絶対だめ?」
「ダメっていったらダメ」
「そんなー……」
かなり落ち込んだ表情を見せ、がっかりとしたのか、はぁー、っと溜め息をつくヒナ。
「溜め息ついたら、幸せが逃げちゃうんじゃないの?ヒナ」
さっきのやり返しだ、と言わんばかりに私は言う
「いいもん。私の幸せ、今既に逃げちゃってるもん」
意地を張っているのか、拗ねているのか。
ぷいっと顔を背け、窓の外に顔を向ける。
そんなヒナの姿を見て、私は思わず吹き出してしまう
「なっ、なっなっなっ!何がおかしいの、ミユキちゃん!」
何故か顔を真っ赤にして慌てて立ち上がる。
「だって、可笑しかったんだもん」
お腹を抱え、笑う私。
もう!と言わんばかりに頬を脹らませ、私の瞳を見つめてくるヒナ。
─────明日にでも、『ミユキ』って呼んでも良いよって、言おうかな────
私は強くそう願う。
しかし、そんな私の願いとは裏腹な現実が動きだした。
- Re: 夢の中にいられたら ( No.5 )
- 日時: 2016/04/29 23:00
- 名前: 四つ葉 (ID: 7qD3vIK8)
放課後。
私達の通う高校、私立真髄高校の校舎内に完全下校を知らせるチャイムが鳴り響く。
「帰ろ、ヒナ」
教室にいたのは、クラスの学級委員である私とヒナのみだ。
「ん───、ミユキちゃん、先帰ってて。私、もう少し残るよー」
少し考えて、笑顔でヒナが言う。
「うん。じゃあ行ってるね」
私は、またあとでねと言い残して帰り支度をし、家へと足を進める。
ちょうど校門前へと来たところ。
- Re: 夢の中にいられたら ( No.6 )
- 日時: 2016/04/30 20:48
- 名前: 四つ葉 (ID: JIUk.xR2)
ヒナはまだ来ていなかった。
───いくらなんでも遅すぎる。
ヒナは、まぁ本人の前では言ってはいけないだろうが、あれでも人一倍おっちょこちょいで、所謂トラブルメーカーだ。
なので、何かここに来るまでトラブっていてもおかしくはないのだが、そんな騒動があったにしても、遅すぎるだろう。
何せ、今は私が教室を出てきてから一時間が経過しているのだから。
言い換えるならば60分、又は3600秒。
まぁ、何はともあれ時計の針がぐるりと一回りするほどの時間がたった。
けれど、ヒナは校舎から出てきてはいなかった。
「おっそいよ、ヒナ………」
私は呟く。
まるで、ヒナが来るのを待ちに待ち、期待しているかのように。
しかし、そんな私の期待と現実は、何があっても重ならないのだ。
そう───悲しいことに。
『警報です、警報です、酷い揺れが発生しました』
私の鞄の中から、そんな機械の声が聞こえた。
聞いたこともない、声が。
こんな経験始めてだな───これが『災害』というやつなのだろうか。
だが、地震ではないようだ。
地面は揺れていない。
一揺れすらもしていない。
とはいえ、津波は土砂崩れではない。
何せ、そんなものでスマホの警報が鳴るなんて、私の知る限りはないのだから。
じゃあなんなのか。
私はふと、校舎に目をやる。
そこには、有り得ないものが───光景が、あった。
「嘘でしょ………」
思わずそんな言葉が漏れるが、嘘じゃないことは私が一番理解している。
私の目の前には校舎なんて無かった。
最初から無かったかのように。
存在すら、していなかったかのように。
いや、さっきまではあったはずなのだが。
そして、校舎が有ったはずの場所にあるものは───暗い暗い闇の穴───いわば───簡単に言うところの───
───ブラックホール───
そう、ブラックホールがあったのだ───。
今にも吸い込まれそうな程の、暗黒にも近い───暗黒その物のような色の、ブラックホールが。
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私には幸せなど要らない。
だから、神様。
もしいるのなら、代わりに下さい。
この世界に───ヒナの命を。
ヒナが生きてさえいれば、私は不幸でも良い。
大切なものは、無くなったときに気づくと言うけれど、正にこの事だ。
ヒナの命が───ヒナの体が───ヒナの全てが。
ヒナが生きていること自体が、私にとっては大事な『生き甲斐』だったのだ。
だから、私の生き甲斐を無くさないで───
どんな犠牲も払うから。
これは、強情だろうか?
やはりこれも、幸せを望んでいることになるのだろうか。
だったら───
前置きの言葉は───幸せなど要らないなんて言葉は、訂正しよう。
私は、幸せなんてつまらないことで争いが起こるとしても、不幸が起こるとしても、其れでも幸せを望みたい。
でも、そんな───幸せを望んだだけで、争いや不幸が起きてしまう現実は───。
私には御免だ。
【第一話 夢の中徒然願う幸せを fin】