複雑・ファジー小説
- Re: はきだめのようなもの ( No.14 )
- 日時: 2018/01/21 22:54
- 名前: 凛太 (ID: aruie.9C)
Aは、私にとっての良き友でした。
渇望 上
これは、懺悔です。私は心の機微に疎い人間ですから、どうしても誰かを傷つけてしまうのです。とりわけ、Aは私の特別でした。
事の始まりは、不可解なものでした。当時の私は、ひどく鬱屈とした感情を抱えておりました。思春期というものは、概して人を迷宮にかどわかしてしまいます。あの頃は同級生や親ですら、私を指差し嘲笑っているかのような気がしたのです。つまり、孤独でした。
今はもうしていませんが、私には変わった趣味がありました。出鱈目なメールアドレスに、雑多な感情をぶつける事です。ただ一言を、行き場のない電子の海の中へと奔流させていたのです。それは「むかつく」だとか「お腹すいた」のような、他愛のないものでした。誰に届きもしない文章は、ある種のSNSのようなものでした。
けれども暗い一人遊びは唐突に終わりを迎えます。返事が来たのです。私は驚きました。もしかしたら、迷惑メールの類かもしれない。慎重に、メールボックスを開けました。
僕と、友達になってください。
そこには、それだけが綴られていたのです。私は目を丸くしました。私はどう扱うべきか、一晩逡巡を重ねました。そうして翌朝、好奇心も手伝って返事を書いたのです。
喜んで。
突飛な考えかもしれません。名前も知らない見知らぬ誰かが、私を必要としている。そう思うと、嬉しかったのです。
それから、奇妙なやりとりが始まりました。便宜上、彼をAと呼びましょう。初めは淡々としたものでしたが、徐々にAの人柄が見えてきました。思慮深く、落ち着いていて、達観したところがある。年の頃は私と同じくらいでしたが、Aは同年代とは異なる雰囲気を持っていました。欠点といえば、少し世間に疎いくらい。だけれども、そんなことなんて気にならないくらいに、Aは完璧でした。
Aは私の話を好んで聞きたがりました。いつもAは優しい聞き役だったのです。時折私が悩みを打ち明けることがあっても、穏やかに相槌を打ってくれました。
僕は孤独だ。けれど、君がいるから平気だ。
これが、Aの口癖でした。私にはAしかいない。そして、Aにも私しかいない。この言葉を引き出す度に、愉悦を感じていました。
そうして文を重ねるうちに、Aと現実でも会いたいと思うようになりました。今振り返れば、とても危険なことです。本名も知らない相手と、会うなんて。私は衝動のまま、Aに提案しました。Aも私と同じ気持ちに違いない、そう確信していたのです。
ごめん、それはできない。
愚かな当時の私は、裏切られたと感じました。断るなんて、当然のことです。Aが正しかったのです。それなのに、私は自分のことばかり考えて。すっかり打ちひしがれた私は、ひどい言葉をたくさん書き殴った気がします。Aは謝りました。けど、私はメールアドレス変えて。Aとの繋がりを自ら断ったのです。
それから緩やかに時間が流れました。孤独だと思い込んでいただけの私は、いつしか高校にも居場所が出来て、Aのことなどすっかり忘れていたのです。3年かけて、私はAを傷つけたのだと理解しました。唯一の救いは、アドレスまでは消していなかったことです。もしかしたら、もう届かないのかもしれない。私のことをすっかり忘れているのかもしれない。これは、身勝手な自己満足です。文字を打つ手が震えます。
ごめんなさい、A。
***
短め。
もう少し続きます。