複雑・ファジー小説

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.26 )
日時: 2016/05/21 20:56
名前: 四つ葉 (ID: JIRis42C)

【文音雪神 parttwo start】

氷。
又の名をice。
一般家庭に置いても然程珍しくもないものだ。
其の氷を身に纏った人なんて、怱々居るもんじゃないだろう。
第一氷は冷たいのだから。
身に纏うなんて限界がある。
しかし、逸んな限界すらも感じずに。
彼女は氷を身に付けていた。
足に、履いていた。
其の彼女の名は───雪白文音。
文の音と書いて文音。
彼女は僕に自己紹介をする。
礼儀がある紳士としては、自分も自己紹介をすべきだと判断をした僕は、口を開こうとしたが、其を察したのか彼女は首を横に振り、無意味だよと言う。
「君の名前は知ってるから」
斎藤齋、13歳、男。
その他家族構成まで知られていた。
血液型や母の実家まで。
………お前はストーカーかよ。
若しくは情報屋とか。
兎に角裏の仕事の方が向いてそうだぞ、お前。

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.27 )
日時: 2016/05/21 22:34
名前: 四つ葉 (ID: JIRis42C)

「にしても、君は私よりも大変だったんだよね?」
後遺症まであると聞いたよ、と雪白は笑う。
「まぁな」
まぁ、生きているだけでマシな方なのだ。
僕の状況を考えれば、生きていること事態が不可解───死んでいて当然の状況だったのだから。
「………」
「………」
沈黙。
重い沈黙。
「…斎藤くん、この間コンビニで本見てたよね?」
…というか、今更なのだがお前の情報広すぎだろ、雪白さん。
お前の前ではプライベートなことが全く持って出来ないじゃないか!
何だよ其の地獄!
「…お前、今まで家族と喧嘩したことは?」
「?いきなり何?まぁ、ないよ」
凄いなこいつ。
否この場合、こいつよりこいつの御家族の方が凄いな。
娘の前でプライベートなことが出来ないのに、その事について一度も言い争わなかったとは!
ある意味神級に凄いぞ、雪白家。
とまぁ。
本題へ。
「もうそろそろ時間だよ?」
「お前だってそうだろ」
お前が行かないなら大丈夫だ、と言い本題を持ち出す。
「お前は僕に何して欲しいんだ」

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.28 )
日時: 2016/05/21 22:59
名前: 四つ葉 (ID: JIRis42C)

「あ、気付いたの?」
下心見え見えだった?と雪白。
あぁ、そうだよ。
第一僕に声を掛ける人なんて、用がある人以外にいないだろ。
「じゃあ、いきなり本題に入るとしよう」
雪白はそう言い上靴を脱ぐ。
「私のこの体質を治して欲しい」
続いて右足の靴下を脱ぐ。
「見ればお分かりだと思うけれど」
最後に左足の靴下を脱ぐ。
「私は氷ってるんだ」
其の両足の膝小僧から下は、氷っていた。
例えるんじゃない。
本当の本当に氷っていた。
氷が付いていた。
氷が固められていた。
氷を纏っていた。
「残念だけど」
僕は足を見つめる。
「僕には其の足を治すことはできない」
無理だ。
唯僕は裏の世界に、裏の世界の事情に、少し首を突っ込んだことがあるだけなのだ。
唯、見ていただけなのだ。
だから僕にはなにもできない。
僕に何かを要求する時点で、抑彼女はミスを置かしている。
僕の事を大きく見すぎだ。
僕は何も出来ない、無力な人間の一人に過ぎないのに。
「あっ、そう」
特に残念がる訳でもなく、平然とした態度で彼女はそう言った。
そしてにこりと微笑む。
「其れでも良い」
と。
「其れでもあなたに力を借りたい」
僕に治して欲しい、と。
人に治して欲しい、と。
「わかった」
多分何もできないよ、と僕は言う。
其れでも理解してくれるだけマシだよ、と雪白。
「じゃあ、今日のところは帰るよ」
雪白は上靴を素足のまま履く。
「あと、一つ忠告しておくけれど」

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.29 )
日時: 2016/05/22 06:51
名前: 四つ葉 (ID: JIRis42C)

雪白はおおよそ体育館がある場所を指差し、不適な笑みを浮かべる。
「入学式、遅刻してるよ?」
「あーっ!」
ヤバイ、もうこれ確実にボッチ確定だろ!
入学式に遅刻とか、何しちゃってんだ僕は!
目立っちゃいけないとこで目立つとか!
しかも最悪、悪目立ちしてるし!
あぁ、ダメだ………。
中学校生活、三年間ボッチ確定。
次いでに渾名は゛入学式゛と゛遅刻゛が関連したような渾名になるだろう。
………最悪だ!

*****

「今日はどうでしたか?イツくん」
「最悪だよ………」

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.30 )
日時: 2016/05/23 20:37
名前: 四つ葉 (ID: kct9F1dw)

あっ、そう。と、特に関心が無さそうに三月は焼き立てのクッキーを差し出す。
放課後。
思いっきり放課後。
リビングにある電波時計の針が16:30をちょっきりを指した頃。
家に帰ると、三月に先を越されていたようで、クッキーを焼き始め、僕に差し出した。
そして此の会話。
「あ、内海とは同じクラスなの?」
三月の云う内海とは、奏の事である。
にしても、何時まで名字呼びしてんだよ奏の事。
此だから幼稚いんだよ、お前は。
「あぁ、同じクラスだよ」
素っ気なく答えながらクッキーを一枚取る。
ぱり。
クッキーを食べると大抵そんな音がするものだが、三月が───我妹が作ったクッキーは違う。
ぺしゃり。
もにゃり。
柔らかく口に溶けていく。
まるでキャラメルの様な触感だ。
………此れ、ちゃんと焼いたのか?
否寧ろ冷やしただけなんじゃ………
と、言いたいことは幾らでもあるが後で酷い目を見るので辞めておこう。
「んー、美味しい。傑作だよー」
何処がだよ。
不味いよ、触感滅茶苦茶だよ。
お前の舌、どうかしてるだろ、絶対的に。
「また作ろうかな〜。その時はイツくん、手伝ってね」

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.31 )
日時: 2016/05/23 20:56
名前: 四つ葉 (ID: kct9F1dw)

「あぁ、喜んで」
もう一枚クッキーを手に取り口の中に放り込む。
気持ち悪く、決して好みではない触感だが悪くはない。
こいつの特色だ。
仕方無いな、我妹ながら呆れてしまう。
そしてもう一枚、最後のクッキーを手に取ってくしゃりと噛んだ。
………あぁ、不味い。

*****

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.32 )
日時: 2016/05/24 06:56
名前: 四つ葉 (ID: kct9F1dw)

クッキーも食べ終え。
二階にある自室に向かっていた戸頃。
「いーつきくん。あっそぶよな?」
耳元で誰かが囁く。
あっそぶよな?って、ある意味脅迫だよな!
怖いよ!
僕、遊ぶこと強制されてんじゃん!
……とまぁ、相手が誰だかは知っているのだが。
まったく、また彼奴か………。
「何だよ、ホミル」
僕は後ろに振り向く。
其処にはやはり彼奴が居た。
赤髪隻眼の女が。
「ホミルとか言う呼び方は辞めろ。妾だって乙女なんじゃぞ。ホミルなんてダサい名で呼ばれて堪るものか」

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.33 )
日時: 2016/05/24 19:29
名前: 四つ葉 (ID: yOB.1d3z)

頬を膨らませて怒る彼女は、相変わらずの様子だった。
………エロいぞ、ホミル。
彼女の名は不知火ホミル。
ホミルは、一応漢字にすると『火三流』だが、片仮名呼びの方が多い。
彼女は前述した通り金髪隻眼の女───というよりも幼女。
幼い容姿に可愛い兎型のポシェットをぶら下げている所からしても完璧幼女。
然しこいつ、中々侮れない奴である。
彼女の見た目年齢は精々頑張ったところで9歳程度だが、実際とは駆け離れている。
実年齢68歳。
彼女曰く、年に見た目が追い付いていないだかとか。
まぁ此処まで来れば分かるだろう。
まぁ御存知なのかは扨置き、彼女は人間ではない。
貝殻である。
そう、彼の真珠の出来る貝殻。
浜辺に有る貝殻。
喋ることの出来ない貝殻。
自由の許されない貝殻である。
そんな貝殻だった彼女だが、在る人物のお節介によって人間にされたのだ。
その人物が不知火羽津。
ホミルと同じ名字を持つ、不老不死の陰陽師。
気紛れで単純で、御人好しな御姉さん。
怒らせると怖い、母親の様な純潔人間。
そして、裏の世界に゛住む゛唯一の人間。
彼女、ホミルの姉であり。
親友であり、友であり。
家族であり主であり。
何拠り彼女を産み出した張本人である。

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.34 )
日時: 2016/05/25 07:00
名前: 四つ葉 (ID: yOB.1d3z)

「で、僕に何の用だよ」
「さて。妾も物忘れが激しいからな。忘れたもんじゃ」
絶対に忘れてなんか無いだろ。
はっきり覚えてるはずだろ。
其れかあれか?
僕の顔を見に来ただけ、とか言うのか?
ホミルに限ってそんなことないだろう。
多分。
僕の知る限りのホミルでは。
「強いて言うとするなら……」
犯罪者の顔でも拝みに来たんじゃ、とホミル。
お前もどうせ僕ん家に不法侵入で来たんだろ。
鏡でも見てとっとと拝んで帰れよ。
此の幼女が。
「とまぁ、御巫山戯は此処までじゃ」
巫山戯てたのかよ!
本気には見えなかったけどさぁ………
幾らなんでも不審者呼ばわりするな!
御巫山戯で!
幼女に言われるとか!
プライドが無いようなもんだぞ!
どんだけ僕見下されてんだよ!
此の幼女にも、幼馴染みにも、性悪妹にも!
「で、本題じゃ」
そう言うと、ホミルは声を潜めて一言。
「御主、氷の女王を知らんか?」

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.35 )
日時: 2016/05/25 22:24
名前: 四つ葉 (ID: Mu5Txw/v)

氷の女王。
大きな黒耳の、愉快な笑い声で「あはっ」とかいうキャラクターを作った会社と同会社がそんな名前のついた映画を放映していた。
因みに今の戸頃テレビ未放送。
三月が見に行っていたな。
と、雑談はよしておこう。
どうでも良すぎる。
氷の女王とは、二通り在る。
目に見える氷。
氷の魔法が使えるだの、何処ぞのファンタジー漫画ではあるまいが、兎に角目に見える形の『氷』。
そしてもう一通り。
目に見えない氷。
心が凍る。
時間が凍る。
全てが凍る。
見えないもの全てが。
人間関係さえもが。
多分、今ホミルが言いたかったのは前者の氷の女王の事だろう。
どちらにしろ、僕は氷の女王なんて知らないよ、と首を横に降る。
意味合い的にはわかるが、ホミルの言いたいことはそう言うことではないだろう。
詰まり、会ったことがあるか。
対面経験があるか、という意味だと思う。
僕の反応を見ると、ホミルはあぁそうかと頷く。
「まっ、御主位の人間がそんなこと何ぞを知るわけがないな。失礼じゃったな、そんなことにも気を使えずに、お主が傷つきやすいことくらい、妾は分かっておるつもりじゃったのに。すまぬの」
いや、こいつ僕をバカにする気しかないだろ。
僕は何処のストレス発散マシンだよ!

Re: 世界一片裏記録日記 ( No.36 )
日時: 2016/05/27 07:29
名前: 四つ葉 (ID: lQjP23yG)

「まぁ、すまぬな。此れは一応真面目な話なのじゃが、少しふざけすぎた」
「大分ふざけてたよな、お前!」
「そんなことはさておき」
置いとくのかよ。
「御主は会ったことがあるはずじゃ」
氷の女王に、会ったことがあるはずじゃ、とホミルは繰り返す。
「そんなもの、ないよ」
会ったことなど無い筈だ、記憶上は。