複雑・ファジー小説
- Re: 宗祇社[オリキャラ募集予定] ( No.1 )
- 日時: 2016/05/21 16:34
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)
——此処、東京の街では1つの噂があった。
その噂とは、警察や国では立場上対応できない事件や仕事を難なくこなす精鋭部隊であり、世界でも畏怖されるほどの実力を持った【能力者】組織。
世界でも2割ほどしかいない能力者がこの組織に集まっているのだ。
警察が取り合ってくれない民間人の事情も請け負うことでも知られている。仕事に応じて悪人の捕縛・武器の所持・能力使用が認められている謎の組織があった——……。
——……その組織の名は、宗祇社【そうぎしゃ】と言われている。
1
「ニンズウ……ブソク……?」
「……済まない、夜明」
謎の組織——宗祇社。そこは、一見普通の事務所のようだが内質は違う。実際は警察や政府でも手に負えないような仕事を完璧且つ、丁寧にこなす精鋭の集団だ。
そんな組織に今嘗てないピンチが襲っていた。それは——人手不足。
「そ、そんなわけないじゃん! つい昨日まで新人が3人……」
「それがね、今日の朝ファックスで送られてきたのよ。『本日限りで辞めさせていただきます』って」
慌てふためくのは、茶色い髪に頂点の癖毛と透き通るような空色の目が特徴的な少女——竜堂夜明【りんどうよあけ】だった。そんな彼女に困ったように眉を下げるのは清楚な雰囲気漂う絶世の美女——リリアである。
夜明は、この宗祇社のメンバーであり古株だ。顧問であるアリアの部下であり——、
「私の不徳がこんな事態を招いてしまった……」
如何にも強面、という言葉が似合う大柄で筋肉質な男、鳳凰堂紅蓮【ほうおうどうぐれん】は体型に似合わず、悲しそうな顔をしている。紅蓮はこの宗祇社の社長であり、圧倒的な人望と戦闘力を持つ男だ。
そんな彼を見て、夜明は強く言えない。
「あーもうわかったわかった! 新しいメンバーが来るまでわたしが外仕事するから。そんな顔しないでよ!」
「……! 夜明……」
パアッと紅蓮の目が輝く。その目の眩さに思わず目を逸らす夜明。その弾みで身に着けていたワームとサーベルが大きく揺れる。
すると、アリアはふと、真顔になった。
「——今日、新しい人が来るわ。……それも、能力者の人が……」
その言葉に夜明と紅蓮は顔を見合わせた。
そう。宗祇社は普通の人では考えられない能力者集団。そして、アリアの能力は【未来予知】。その名の通り、未来を予知する。秒・分・時間・年単位で未来を予測できる幅広い能力だ。だが、その余地は絶対ではないので変えようと思えば本人の行動次第で変えられる。
——……ガガガッ。
機械音が社内に響き渡る。
その音の主はファックス。夜明がファックスの紙を見ると興奮したようにアリアの元に駆け寄った。
「凄いよアリア! 今日も又未来予知当たってる。内容は『是非、私も宗祇社に努めたい。だが、私は宗祇社への行き方がわからない。よかったら案内してくれる使者を送ってくれないだろうか。 無涯郡司【むがいぐんじ】』だって」
「新しい人が来るようだな」
嬉しそうに紅蓮は立ち上がる。その様子にアリアは思わず微笑む。
「じゃあ夜明。案内してあげて。見れば無涯さん——午後1時に広場の噴水前にいるそうだから」
「わかった! ってもうすぐ1時じゃん、急がないと」
「周りをよく見てね〜」
バタバタと準備をし始める夜明。そんな彼女にアリアは注意を促した。
「はーい」と返事をすると慌ただしく夜明は外に出て行った。
2
「来ない……」
夜明は、何とか時間ぴったりに広場の噴水前に来られた。……のだが、呼び出しをした張本人、無涯という人間が一切姿を現さない。
時間は約束の1時から30分経ち、夜明はげんなりしてきた。
「騙されたのかなぁ、帰りたいよぉ……」
——……夜明は大勢の人に囲まれるとネガティブになる。というのも、大人数で囲まれると落ち着かなくなるというのが大きな理由だが。
次第に夜明は全員が無涯に見えてしょうがなかった。
「きゃああああっ!」「人が刺されたぞ!」
「なに……!?」
楽しそうな声から一変、悲鳴に変わった。
思わず背後を振り向くと、そこは地獄絵図だった。刺されて腹部から血を流している女性、腕から出てくる血を抑える男。
逃げ惑う人々。
夜明は状況を整理しようとした瞬間、大きな声が聞こえてきた。
「う、動くんじゃねえぞ! 動いたらこの餓鬼を殺すからな! 助けたかったら早く1億円と逃走車出しやがれ!」
「ママ—!」
広場の中心にいたのは、黒いサングラスとマスクをしている怪しげな男。何よりも危険なのは手に持っているナイフと人質であろう5歳ぐらいの女の子だ。女の子は近くにいる母親に助けを求めているが、母親はナイフを警戒しているためか手を出せない。
「芳美【よしみ】……!誰か芳美を」
「助けろってったって……」「警察を待とうよ」「誰かが助けてくれるって」「それより早く逃げよう」
周りはざわざわするだけで、少女——芳美を助けようとはしない。挙句の果てには、近所の野次馬が興味本位で来たり、撮影仕出すしまいだ。
(……こいつ等……!!)
夜明は無表情でギュッと強く拳を握った。
そして……。
「ねえ、そこの人。そんなことしても何の意味も価値もないからさっさとその子離してよ」
「誰だ御前!?」
「誰だっていいだろ」
ゆっくりと、確実に一歩一歩、夜明は男に近寄る。
男は後ずさりしながらナイフを芳美から夜明に向ける。
「そこから動くな! 動いたらお前もこの餓鬼も殺すぞ!」
「——……殺すって言葉を簡単に使うなよ」
その瞬間、男の手からナイフが消えた。——否、夜明が腰に差していたサーベルを一瞬で抜き、居合でナイフを吹き飛ばしたのだ。
男は驚く暇もなく。すぐさま夜明による鳩尾に拳を入れられたことによって膝を地につけた。
そして空かさず解放された芳美を抱えて母親の元へと着地した。
「……もう大丈夫だよ」
「おかーさーん!!」
「芳美!!」
母娘は安堵の抱擁を交わす。その様子を安心したように夜明は微笑む。
だが、夜明の頭部にジャコッと物騒なものが突き付けられていた。
答えは簡単、拳銃だ。そして、ナイフを持った男の他に仲間がいたのだ。
「へぇ、アンタ強いじゃん。でもこうやって背後を取られたら終わりだよね? 仮にアンタが避けられる術を持っていたとしても目の前にいる母娘【おじゃまむし】が死んじゃうね?」
「……!」
「おらあっ!」
夜明は母娘に被害に合わせないように【敢えて】拳銃を持った男の鋭い蹴りを食らった。
夜明は噴水に激突し、その衝撃から頭部から一滴の血が流れる。
「……軟弱な蹴り」
「さあ、死んでもらおうか」
「それは無理だよ」
突然の軽やかな声に、銃を持った男は驚愕した。その声の主は隣にいた。音も気配もなく、何時の間にか。声の主は、茶色いコートが特徴な美青年だった。
「お前……いつの間に!」
「おっと」
——パン、パン。と零距離から男は美青年に銃撃を浴びせる。だが、美青年は無傷である。
「何で銃が聞かない!!」
「残念。僕の能力—ー無力感【むりょくかん】は生身以外の攻撃を受け付けない」
「能力者か!!」
男は焦りながら美青年に拳を当てようとするがひらり、と躱してしまう。
余裕そうに美青年は微笑を浮かべ、人差し指を形のいい唇に当てる。
「君はもうすぐ宗祇社の少女に倒される。……しかも、飛び切りのパンチでね」
「何言って……」
男が反撃しようとした瞬間、その体は大きく浮かび上がった。
そしてそのまま宙へ浮かぶ。
「なんだこりゃあ!? 手前の能力か!?」
「違うってば。法螺、目の前にいるだろう……?」
「え」
高く、飛び上がるのは、夜明。
拳を強く握っている。男は息をすることを忘れた。何故なら、少女の威圧感に何もできなかったからだ。
「ま、待て。お、俺らが悪かった。だから、だから……!」
「人の痛みを味わえ」
「い、嫌だ——っ!!」
その瞬間、夜明の拳が男の顔面に直撃した。男は遥か彼方に飛ばされ、衝突した場所は、10メートル離れた公園の砂場だった。
- Re: 宗祇社[オリキャラ募集予定] ( No.2 )
- 日時: 2016/05/21 18:40
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)
「言い忘れてたね、わたしの能力は重力不可【じゅうりょくふか】。見たり触ったものの重力を無くして操る」
夜明は静かに着地すると、野次馬たちから大きな歓声が上がった。
「凄いぞ君! 見ててすっきりした!」
「すっげー! さっきのパンチ漫画みてぇ! 思わず撮っちゃったよ」「私も!」
「いやーよかったよかった。万事解決だな」「怪我しなくてよかったー」
「ヒーローだな!」
(…………!)
その言葉に夜明の怒りが再発した。そして、
「ふざけんな!!」
夜明の怒りが広場を木霊する。思わず野次馬の歓声は嘘みたいに止む。
「被害にあった人のことも考えろよ野次馬ども!! なんだよ、この事件はショーか何かか!? のんきに撮影なんかしやがって! そんなことしてる暇があったら警察や救急車呼んでよ。刺された人もいるのに!!」
思わず、叫んでいた。言うつもりはなかったのに。あまりにも被害者に無頓着な傍観者たちに夜明は怒りの声をあげていた。
「わたしはヒーローじゃない! そんなこと言ってる暇があったら……」
「もういい。もういいよ。落ち着いて」
突然、ポンと肩に手を置かれる。そしてようやく、夜明はハッと我を取り戻した。肩に手を置いたのは、銃弾を無効化した美青年。
目の前を見ると怪訝な視線。
「ちっ。なんだよ、折角褒めてやったのに」「全然ヒーローじゃないし—」
「てか、死んでないんだからよくね?」「それなー」
「刺されたの数人だからいいじゃん。そんであの母娘だって助かったんだし」
「なに偉そうに。少し強いからって。私たちがアンタみたいに戦えるとでも思ってんの?」
手のひらを反すように、半分の野次馬たちは吐き捨てるように罵声を浴びせる。そしてそのまま帰って行った。
「…………」
「気に病むことはないさ。君は正しい。正しいことをしたんだ。でも、人々はそれが理解できないんだよ。……仕方がないことだけどもね」
「……違うよ、わたしがいけないんだ。確かに戦える人は少ないし、できないのもわかってる。でも、今のは……命に対して失礼なんじゃないかって。いくら無事に助け出してもその人の心の傷までは助けられない。わたしは、ヒーローじゃないから」
悲しそうに、夜明は言う。
そんな彼女に男は、笑顔で言った。
「でも、わかってる人にはわかってると思うよ」
「……!」
美青年は親指で目の前を指す。その方向を目で追うと、そこには、「ありがとー!」と叫んでる芳美と、何度も頭を下げる母親だった。
その姿に夜明は漸く強く握っていた拳を緩めた。
「ね? 君は正しいことをしたんだよ」
3
「ご協力ありがとうございました」
ファンファン……。とサイレンを鳴らしながら、パトカーと救急車がやってくる。
警察官は夜明と美青年に敬礼すると、そのまま事件現場に走り去っていった。犯人2人は無事逮捕され、警察所へと連行された。
しばらく事情を聴かれていた夜明と美青年。解放されたのは夕方だった。
「あーあ。女性とお話ししてたらもうこんな時間だよー。」
「そういえばわたしもだー……。もう帰っちゃったかなぁ」
「「噴水の人」」
ため息をついた夜明と美青年。すると、声が重なった。思わず2人は真顔になって顔を見合わせる。
「……一応聞くけどまさか、アンタって……」
「うん。今朝、ファックスで送った無涯郡司だよ。まさか、君が使者?」
「う、うそでしょ!?」
夜明は一気に顔を青ざめると、そのままUターンして帰ろうとした。
だがその手を美青年——無涯に掴まれる。
「どうして帰るのさ!?」
「遅れた理由が女を軟派してた野郎と仕事する気はねぇ……」
「それは反省してるよ。ほら、君さっき頭に怪我したでしょ」
「もう治ったよ」
「早いね」
夜明は頭部を見せる。そこには一滴の血もなかった。
彼女は諦めたようにため息をついた。
「じゃあ早く行くよ! 何時間も社長と顧問を待たせてるんだからね」
「はいはい、わかってるよ。……そういえば君、名前は?」
「夜明! 竜堂夜明!」
「宜しくね、夜明」
パアン!と、握手の代わりにお互いの手を叩く。これが、夜明と無涯の始まりだった。
※
ようやく1話終了です。
夜明もまだまだ子供だった時代です。
「名前のない怪物」と比べると結構まともで熱血な性格してます。
呼んでくれた方々に感謝を。