複雑・ファジー小説
- Re: 宗祇社 →5/21 オリキャラ募集開始。 ( No.12 )
- 日時: 2016/05/22 15:46
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)
——宗祇社の朝は異臭から始まる。
1
「おはよー……」
時刻午前7時。Tシャツに短パンというラフな姿で社内の食堂へ足を運ぶ夜明。宗祇社の社員には全員寮が設けられ、殆どの者が其処に住んでいる。そのため、料理当番と言う名の女神、アリアがメンバーの食事を作っている。
夜明は起きたばかりか、髪はボサボサ、足取りは覚束無い。
寝ぼけ気味の夜明の鼻に突きさすような異臭が漂った。
「!? 何この臭い!? 焦げくさっ」
一気に目を覚ますと、慌てながら台所へと駆け出した。どうしよう。もし家事だったら。アリアが危ない。
嫌な予感が頭を過る。
「アリアッ!!」
台所の戸を一気に開ける夜明。目の前に映った光景は、命の危険でもなんでもなく。只の日常風景だった。
「ア、アリア殿。フライパンに酒を入れたら一気に燃え上がってしまったのですが……っ」
「あら、オムレツ黒焦げになっちゃったわねぇ」
「……早【はや】。又なの?」
短い銀髪に、男物のスーツを着こなす女性はあまり表情を変えないながらもフライパンを持ちながらアリアに困ったように助けを求める。
フライパンの中身を見たアリアは苦笑する。
安心したように、呆れたように、夜明は脱力する。
「済みません、夜明殿。起こしましたか?」
「いや、異臭で目が覚めたわ。ていうかその暗黒物質朝食に出すわけじゃないよね」
「……ゴメンね夜明。このオムレツ、トライしてからもう10回目なの。卵がもうなくて……」
「申し訳ありません。私が不手際なばかりに」
——走瞬早【そうしゅんはや】。宗祇社のメンバーであり、女性ながらも仕事は完璧に熟す、バリバリのキャリアウーマン。能力は【風飛翔】という自分の手から放ったものの速度を操作する力を持つ。
そんな彼女の唯一の弱点は——料理音痴であることだ。
2
——食堂にはご飯・味噌汁・秋刀魚の塩焼き・麦茶・ほうれん草のお浸し・暗黒物質が出揃っていた。
「あはは……。早ちゃん、今日は麩菓子を作ったの? 何だか人生の様な味がするね」
「上禾【かみか】さん。それ元オムレツだよ」
細身で眼鏡を掛けた優し気な雰囲気を持つ端正な顔の男はもじゃっと音を立てながら元オムレツを口に入れた。
——寒崎上禾【かんざきかみか】。彼も又、早と同じく宗祇社メンバーであり、能力者だ。能力名は【光学歪曲】。あらゆる光線を屈折させる能力だ。先ほどの発言からも解る様に、彼は異常なほど鈍感である。
夜明は突っ込みを放棄しつつ、上禾に忠告した。
早は落ち込みながら深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ありません……」
「……早君、次頑張り給え。料理は練習することで上手になるのだ」
「でもね、みんな。早、ちゃんと料理うまくなっているのよ。今日の味噌汁だって私と一緒に作ったし」
早をフォローするように紅蓮は慌てて言う。
アリアも嬉しそうに早を見た。
「それはアリアさんが手伝ったお陰だと思うよ」
いつの間にか、アリアの隣には無涯が座っていた。勿論彼は暗黒物質に手を付けようとしない。
「おはよう。無涯君。てっきり起きてこないかと思ったよ」
「冗談はやめたまえ、寒崎君。この僕がアリアさんの料理を食べないわけないだろう? この全宇宙を凝縮したような食事を!」
「大袈裟よ。無涯君」
「いいから早く食べなよ」
——後から聞いた話だが、夜明が寝てしまった後、無涯は全員の宗祇社メンバーと会話をしたという。
寒崎にビシッと指をさす無涯に夜明は冷静に言い放った。
彼女の言うとおりに無涯は席に座ると、ご飯に手を付け始めた。
だがもちろんの如く暗黒物質には手を付けない。
「相変わらず騒がしいなここは」
「おはよう哀淵【あいえん】さん。もうみんな食べてるよ」
頭をガリガリと掻きながら入ってきたのは、胡散臭い医者、という言葉がぴったりのボサボサの金髪頭に白衣姿の男——哀淵鑑見【あいえんかがみ】。彼は、なぜか名前を呼んでほしくないらしく、宗祇社メンバーを名字で呼ばせている。
彼も又、宗祇社一員で専属の医者である。【無限知性】というどんな事柄や物も、見ただけで原理、性質、対処を直ぐに判断できる能力を持っている——といいたいが、飽くまでこれは彼の努力の結晶であり、能力ではないが、他人から見れば能力者だと勘違いしてしまう輩も多かった。
夜明は横目で哀淵を見ると、朝食を食べ終わり、立ち上がった。
「そうだ。夜明。今日、昨日言っていた私の紹介で此処にやってくる新人が来るんだ。このメモの場所に無涯君とともに行ってほしい」
紅蓮は胸ポケットの中からメモを取り出すと、それを夜明に渡した。
夜明は中身を見ると背の高い紅蓮を見上げる。
「また昨日みたいに連れてくればいいの?」
「……いや。今日は新人を連れてくると同時に【ある任務】をしてほしい」
「僕の初任務ってわけだね」
「そして上禾」
「はい」
「君も夜明たちに着いて行ってほしい。何かあるかもしれないとアリアの予言があった」
「わかりました」
上禾はガタッと立ち上がり、素早く準備を始める。
「無涯」
「わかってるよ夜明。僕、仕事はちゃんとするから」
お互い顔を見合わせると、宗祇社の入り口の扉を開けた。