複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.3 )
日時: 2016/06/13 16:34
名前: 凛太郎 (ID: CzRhDmzb)

第1話「燃えろ熱血!赤鬼誕生」3

「な・・・・・・な・・・・・・なんじゃこりゃー!」

 自分の恰好を見た俺は、馬鹿みたいな声をあげてしまった。
 赤い学ランのような感じの、でも上着の長さは膝くらいまである服。同色の裾がボロボロのズボンに、足はなぜか素足。腰からは刀を提げ、頭には赤いツノが二本生えていた。手触りだけなので真偽は分からないが、髪も逆立っているように感じる。
 俺は頭から生えたツノを手で触り、唖然とする。

「何この恰好・・・・・・だっせぇ・・・・・・」
「ダサいとはどういうことアカ!」

 そして目の前には、宙に浮いたまま頬を膨らませた手のリサイズの赤鬼がいた。
 うーん。わけわからない。いや、待てよ?これは夢なのかもしれない。
 そうだそうだよな。もしかしたら練習で疲れてグランド整備中に眠っちまったのかもしれない。
 なるほどなるほど。納得。

「まさか・・・・・・鬼に変化するなんて・・・・・・」

 愕然とするキモンとやら。
 どうせ夢なのだ。こうなったら、とことん楽しんでやろうじゃないか!

「ハッハッハッ!聞いて驚け!俺の名前は赤桐 龍斗!悪を裁き正義を守る、鬼だ!」

 ん?普通は逆な気が・・・・・・まぁいっか。どうせ夢だし。
 俺の叫びを聞いたキモンは「こいつ馬鹿か」と言いたげな目で見てくる。
 気にしないさ。どうせ夢なのだから!
 俺は刀を抜き、化け物に向けた。

「悪に敗れし悲しい魂よ!正義の業火で燃やし尽くしてやる!」
「ダゴビキ!その馬鹿を殺してしまえ!」

 キモンの命令により、ゴールの化け物、ダゴビキ?とやらは、腕を振り上げてくる。
 俺はそれを受け止めようと手を出すが、化け物の迫力が思いのほかヤバかったので、避ける方面に変更。俺はすぐにバックステップで距離を取る、のだが・・・・・・。

「えーっとぉ・・・・・・」

 一回後ろに飛んだだけで、数メートルくらい化け物が離れた。
 そりゃ、俺は運動だけには自信がある方だが、だからってちょっと後ろに飛んだだけでここまで飛べるほどの能力ではない。
 夢とは分かっていても、驚くしかない・・・・・・。

「すぐに攻撃をするアカ!」

 謎の赤鬼の命令。なんで夢なのに命令されるんだ?
 まぁいい。もしかしたら脳の奥底からの命令なのかもしれない。
 だったら、従うしかねえな、うん。

「うおー!」

 俺は右手を振りかぶり、思い切り化け物をぶん殴った。
 単純なパンチのつもりだったのだが、化け物はぶっ飛んで部室棟の壁にぶち当たる。
 パラパラと崩れる破片。俺はそれを見て呆然とした。

「りゅーと!必殺技を使うアカ!」

 またもや赤鬼の命令。
 つか・・・・・・。

「はぁ?必殺技ぁ?そんなの使えねえよ」

 俺は純粋な気持ちを訴えた。
 必殺技なんて使えるなら、俺は今頃大スターだ。

「化け物に対する怒りの気持ちを刀に込めるアカ!」

 化け物に対する怒りか・・・・・・。
 俺はチラッとバラバラになった写真に目を向けた。
 氷空との大切な思い出の写真。今、アイツとサッカーができない中で、あの写真だけが、俺とアイツがサッカーをしていた証拠だったのに。化け物のせいで!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 俺は叫び、刀を両手で持って怒りを込めていく。
 だんだんと炎を帯び、力が増していく。

「でりゃあああああああああああああああああああッ!」

 叫び声と共に、俺は思い切り化け物の体をぶった切った。
 ゴールネットが焼け落ち、静かに化け物は消える。
 それと同時に、緊張の糸が解けたのか、瞼が落ち始める。
 次目を覚ましたら、全部元通りになっているのかな。あの、写真も・・・・・・。
 最後に見えたのは、小さな赤鬼の笑顔と、右手の甲に浮かんだ謎の紋章だった。