複雑・ファジー小説
- Re: 心を鬼にして ( No.7 )
- 日時: 2016/06/15 16:44
- 名前: 凛太郎 (ID: CzRhDmzb)
第2話「冷静沈着?青鬼誕生」3
今日も一日が終わった。
僕にとってそれは、まだ続く長い人生の内の、ほんの一場面が終わったという感覚であり、あくまで一つの結果。軌跡。記録でしかなかった。
熱中できることがあれば、それも多少は変わるのだろう。
だがしかし、少なくとも今は、それはできない。やりたくとも、できない。
「今日も・・・・・・楽しそうだな」
家の方向の影響で、グラウンドにある南門から僕はいつも帰る。
そのせいで、毎日サッカー部の練習を眺めることになるのだが、なんともまぁ楽しそうにサッカーをしている。
それを見るたびに、自分も参加したい、という気持ちにかられる。
僕は慌てて首を横に振り、その考えを吹き飛ばす。
「僕にはもう、サッカーをする権利なんてない」
それが僕の結論だ。
僕にはもう、サッカーをする資格も、権利も、何もない。
あるのは、好きなことを我慢する義務だけだ。
僕は足早に門を出て、病院に向かう。
総合病院の階段を上り、とある部屋の前でノックをする。中から返事はない。いや、あるわけがない。
心のどこかで、返事があることを期待している自分がいる。
僕はため息をつき、扉を開けた。
そこでは、機械などに囲まれた少女が一人、眠っていた。
「陽菜。今日は天気が良いよ」
僕はそう語りかけつつ、花瓶の花を入れ替える。
返事は無い。前までの彼女なら、笑顔で同調してくれたのかもしれない。
しかし、そんな彼女は眼を覚まさず、その整った顔で静かにベッドに横たわっていた。
僕はベッドの横の椅子に座り、彼女の頬を撫でる。
「君は・・・・・・その子に目覚めて欲しいのかい?」
その時、背後から声がする。
振り返ると、赤い髪の男が、顔をにやけさせながら窓の外に立っていた。
あれ?ここって3階なんだけど?
そう思って目を下に向けると、彼の足元には何やらツルツルした赤い変な生物がいた。
男は、その生物をまるで台にするように、そこにいた。
「あの・・・・・・えっと・・・・・・あなたは・・・・・・?」
「おっと。自己紹介が遅れたね。私の名前はクドツ。よろしく」
「あ、蒼井 氷空です・・・・・・」
とりあえず僕も自己紹介をしておく。
いやホント、誰だよコイツ。まるで至極当然のように、謎の生物の上に立ち、3階の窓の外に立ってるなんて。いつからこの世界はファンタジーの世界になったんだ。
「それはそうと、君はそこの少女に目覚めてほしいようだね?」
「え?」
突然、脈絡もなく言われた言葉。僕は、とりあえず頷いておいた。
すると彼はニヤリと笑い、「じゃあ、私と取引をしようか」と言った。
取引?何の?
「なに、簡単なことさ。ちょっと君の中の鬼を退治するだけ。そうすれば、君の大事なその子は助かるよ」
「僕の、鬼って・・・・・・?」
これまた唐突な謎の単語。
鬼は知っているよ?節分とかになると、豆をぶつけられちゃうやられ役だよね?
でも、それがどうした?
「詳しい説明をするのは時間が長くなるから省こう。ただ、君の中にある『悪いもの』を排除するだけさ」
「僕の・・・・・・悪いもの・・・・・・?」
「あぁ。ただ、ちょっとやり方が荒くなる。でも、それさえ済めば、君の大事なその子を助けてあげられる」
どういうことをするのかは分からない。でも、もし彼女が助かると言うのなら、僕は・・・・・・———。
「・・・・・・分かった」
僕はカバンを持ち、外に出た。
外に出て分かったのだが、謎生物はカニの姿をしていた。
すると、謎の巨大生物の大きなハサミが、僕の体をわしづかむ。
「な・・・・・・ッ!?」
「大丈夫。すぐに終わるからね」
言葉と同時に、ハサミに力が込もって・・・・・・———。
「危ない!」
赤い服を着た男が突然、現れた。
謎生物の腕を切り落とし、着地をする。
その男は奇妙な恰好をしていた。
妙に上着が長い学ラン。ズボンの裾はボロボロで、足は素足。
髪は逆立っており、額からは2本の真っ赤な角が生えている。
「なん・・・・・・あ、あなたは、一体何なんですか!?」
「あなたって・・・・・・俺だよ、わかんねーか?」
笑顔で自分を指さしてくる男。
いや、俺とか言われても・・・・・・あぁ、でも、こうして見ると、誰かに似ているような気が・・・・・・?
その時、男の頭を赤い鬼のような生物が叩いた。
「りゅーと!何正体ばらそうとしてるんだアカ!」
「いった!別にいいだろ?氷空は俺の友達なんだし」
「お前の正体が桃太郎一行にばれたら、ソイツどころか学校が危なくなるんだぞ!」
「でもよぉ、もうキモン?とやらに名乗ったし。あんまり意味なくないか?」
「うぅぅ・・・・・・でも、やっぱり人にばらさないっていう縛りがないと、どこでもかしこでも変身されたら困るし」
「そうかー」
まるでコントのような会話をする二人。
ていうか、りゅーとって・・・・・・まさか?
「もしかして・・・・・・お前、龍斗か?」
「おー!やっとわかったか!」
「ていうか、そこの赤鬼がそう呼んでたし・・・・・・」
「オイラのせいなのか!?」
「お前らこっちを無視するんじゃねー!」
その時、声がした。
見ると、クドツがかなり怒った様子で僕たちを見下ろしている。
「氷空。下がってて。俺が倒すから」
「はぁ!?」
「いーから」
そう言って刀を構える龍斗。
仕方がないので、小さな赤鬼を抱えて建物の陰に向かった。
「は!友達を庇ったつもりか!」
「そうさ!氷空はいずれ俺と一緒にサッカーをする義務があるからな!」
何を言っているんだコイツは。
でも、まだ諦めてなかったのか・・・・・・。
そう思うと少しだけ、心が軽くなった。
「じゃあお前ごとぶっ潰してやる!」
そう言って残ったもう片方の腕を振り上げる。
しかし、龍斗はそれをかわし、一気に距離を詰める。
すぐに炎を剣に纏わせ、攻撃・・・・・・というところで、ハサミに掴まれた。
ほんの数秒の攻防。それだけで、龍斗は捕まってしまった。
「龍斗!」
「はっはっは!あんな友達のことなんか見捨てて、さっさと逃げれば良かったのになぁ!」
クドツの言ったことは、皮肉にも正論だった。
僕のことなんか気づかず、ここに来なければ良かったのに。
そもそも、僕からすればどっちが悪いのかもよく分かっていないというのに。
「友達を見捨てることなんか・・・・・・俺にはできない」
でも、無意識に龍斗の味方をしていたのは、なぜだろう。
「氷空は俺の大事な友達で・・・・・・親友だから」
そうか。親友だから。
だから、僕は彼の味方をしていたんだ。
「親友を守るのは、当たり前のことだから!」
彼は今、僕を守るために危ない目に遭っている。
僕のせいで、負けそうになっている。
僕の、せい?
「おい、そこの化け物!」
僕は叫んだ。
クドツと、謎生物と、龍斗の視線が僕に注がれる。
僕は思い切り叫んだ。
「さっきの取引の続きをしようじゃないか!僕の鬼とやらを排除すれば、お前も満足だろう!?何なら僕の命を奪ってくれても構わない!だから、龍斗を離せ!」
「何を馬鹿なことを言っているんだ!やめろ!」
「へーえ。中々面白い少年がいるじゃないか」
クドツの言葉に化け物は龍斗を離し、僕の体を掴んだ。
「それじゃあお望み通りぶち殺してやるよ!せいぜい友達に別れの言葉を言うんだな」
目を見開かせ、笑いながら、クドツは言った。
それと同時に、僕の心に恐怖心が湧き上がってくる。
怖い怖い怖い怖い怖い。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
そんな恐怖を紛らわせるために、僕は龍斗に向かって叫んだ。
「龍斗!お前は本っ当に・・・・・・馬鹿野郎だな!」
僕は、笑った。無理やり口角を上げて、笑った。
それとほとんど同時に、僕の体を氷が包み込む。
不思議と冷たくはない。
やがてその氷がはじけ飛ぶと、そこには・・・・・・青い服を着た、鬼がいた。