複雑・ファジー小説
- Re: 心を鬼にして ( No.9 )
- 日時: 2016/06/16 21:47
- 名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」1
「はぁぁぁ・・・・・・」
ベッドの枕に顔を埋めながら、俺はため息を吐いた。
氷空が鬼持ちで俺のように覚醒した。それは嬉しい。
しかし・・・・・・。
『・・・・・・やめておくよ』
「だぁくっそ!一体なんでなんだよぉ!」
俺が叫ぶと、アカトは不満げに「うるさいアカ!」と怒鳴ってくる。
そんなに怒鳴らなくたっていいじゃんか・・・・・・。
「そういえば、あのそらとやらとりゅーとは、一体どういう関係なんだ?」
気付けば枕元まで来ていたアカトはそう言って首を傾げてくる。
俺は顔を上げて「幼馴染」と言ってやる。すると、目を輝かせた。
「じゃあ、そらとりゅーとは仲が良いのか?」
「まぁ・・・・・・前はな」
「ん?前は?」
俺はそれで話を終わらせようと思ったが、頭をアカトにペシペシと叩かれた。
仕方がないので座り直し、アカトに説明してやることにした。
「俺と氷空が出会ったのは小学4年生。近所のサッカークラブで一緒にプレイしてたんだ」
−−−
ついに小学4年生になれた。
サッカークラブに入るには、4年生以上じゃないとダメなんだって。
でも、やっとなれた。
俺は嬉しくて、すぐに走ってクラブの入団試験を受けに行った。
「このサッカーボールでドリブルをして、チームメンバーを2人かわして、シュートでゴールを決めれば合格だ」
そんな説明を受ける。
グラウンドに置かれたサッカーボール。これを蹴ってシュートをすればいいのか。
「それじゃあ、1番から」
そんな感じで試験は始まった。
番号順はどうやらあいうえお順らしく、俺は2番目だった。
1番は蒼井とかいうやつらしく、黒髪の少年がサッカーボールを手に歩いて行っていた。
このチームは小学生のジュニアチームは男女混同らしく、女子もちらほらとだがいる。
彼女たちは蒼井とやらの顔を見てきゃーきゃー言ってる。
確かにイケメンだとは思うが、サッカー上手くなきゃ意味ないだろ、と俺は鼻で笑っていた。
そう、その時までは。
「うおぉ・・・・・・」
まるで風のように素早く、5年生の二人をかわし、ゴールにシュートを決める。
その速さに俺はつい、見惚れてしまった。
コイツ・・・・・・スゲー・・・・・・。
「よし。合格だ。次」
コーチの人はそう言って俺に目を向けてくる。
俺は勢いよく立ち上がり、サッカーボールの前に立つ。
深呼吸をすると、グラウンドの臭いが肺に溜まるような感覚がした。
「うっし」
小さい声で言い、ボールを蹴ってドリブルをする。
目の前に、すぐに5年生の選手が現れる。そこで考える。
ゴールキーパーもいないのに、わざわざかわす必要なんてないんじゃないか?
強引に蹴れば、入るんじゃないか?
「いっけええええええええ!」
俺は叫び、ボールを思い切り蹴った。
それは大きく弧を描き、静かにゴールネットに吸い込まれていった。
「うーん。合格にはするけど、ちょっと強引するかな」
コーチは苦笑いをしながらそう言った。
そうか。これはドリブル能力も見るテストだったのかもしれない。
やってしまったと思いつつ、俺は列に戻る。
「一々叫んだり、力任せだったり、暑苦しいんだよ」
番号の関係で隣だった蒼井は俺の顔すら見ずにボソッと呟くように言った。
それを聞いた俺はイラッとしてしまう。
「これくらい強引なくらいがちょうどいいんだよ。サッカーっていうのは点を取った方が勝つんだから」
「止められたら意味ないよ。試合運びも完璧に、強引にいって失敗しないようにしなくちゃ」
「それで点取れなかったら元も子もねえじゃんか!」
「強引に行くよりは成功確率は高いよ」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」
「おーい。そこうるさいぞぉー」
言い争いをしていたら、コーチに注意された。
俺は口を閉じ、蒼井の顔を睨んだ。彼は不敵な笑みを浮かべた。
それからは、二人で競い合いながら強くなっていった。
いつしか、俺たち二人の言い争いなどはチームでは日常茶飯事のような扱いになっていた。
中学に上がったら、二人でサッカー部に入り、2トップと呼ばれていた。
氷空は頭もよくリーダーシップもあり、司令塔のようなこともしていたので、キャプテンになった。
俺はキック力と強引さで得点力もあったので、エースになっていた。
地区大会では優勝したが、全国大会では1回戦負けだった。
俺たちは泣きながらも、約束した。
「高校でもサッカーやって、リベンジしような!」
「ああ・・・・・・!」
俺たちは拳タッチをした後で、記念写真を撮った。
−−−
「じゃあ、アイツは約束を破ったのか?」
「そう、なるのかな・・・・・・でも、俺は信じてる。アイツなら、きっといつかはサッカーをしてくれるって」
俺はそう言いつつ、窓の外の月を見た。
丸い月の黄色の光が、今日はいつもより儚く見えた気がした。