複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.11 )
日時: 2016/07/03 16:46
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」3

 龍斗に腕を引っ張られ連れていかれた場所は、小学生の頃一緒にプレイしていたサッカーチーム専用のグラウンドだった。
 そこは河川敷のような場所になっており、今日は練習が無い日なのか、だだっ広いグラウンドが広がっていた。

「ホラ、ここでさぁ、よく一緒に練習してたよなぁ」

 忘れ物のボールを拾いながら、龍斗は笑う。
 僕はグラウンドを見渡し、「・・・・・・そうだな」とだけ言っておく。
 とはいえ、確かに懐かしい。中学に入ってから全然来てなかったから、来るのは4年ぶりだ。
 その時突然、ボールが投げられる。咄嗟に胸で受け、何度かリフティングしてから、胸の前まで蹴り上げて掴む。
 顔を上げると、龍斗が白い歯を見せて笑っていた。

「やっぱ、好きなんだな。サッカー」
「・・・・・・まぁ、ね」

 僕は曖昧に答えることしかできなかった。
 龍斗は僕からボールを奪い取ると、リフティングを始めた。

「よっ、はっ、とっ・・・・・・ホラ。上手くなったと思わないか?」
「お前、何を・・・・・・」
「俺、上手くなったのをお前に見せつけたくて、ずっとリフティング頑張ってたんだ。中学の時までは、お前に負けっぱなしだったからな。リフティング以外にも、ドリブルだとか、ディフェンスだとか。シュートだったら、負けない自信あったけど。俺エースだったし」

 そこまで言うとボールを地面に落とし、足を乗せて、ニカッと笑った

「久しぶりに勝負しようぜ!ボールを奪ってゴールを決めた方が勝ちな」
「なっ、僕はサッカーをするつもりは・・・・・・」
「一回くらいいいじゃんか。ホラ、いくぞ!」
「おいっ・・・・・・」

 突然ボールをこちらに向かって軽く蹴ってきた。僕はそれを足で止める。
 その時、龍斗がこちらに向かって突進してきた。
 そしてボールを奪おうとタックルをしてくる。僕はそれを足でボールを転がしかわす。
 速度やパワーはあるが、やはり動きは単調で、強引すぎる。
 僕は体を捻ってそれをかわし、ゴールに向かってシュートを打つ。
 距離があったせいか、ボールは途中で何度かバウンドしつつ、最終的にはコロコロと転がってゴールに入っていった。
 僕と龍斗は肩で息をしている状態だった。

「んだよ。何か月もしてなかったくせに、なんでそんなに上手いんだよ・・・・・・」
「陽菜が目を覚ましたら、やるつもり、だったからね・・・・・・多少は練習もしてたさ」
「へっ、やる気満々じゃんか・・・・・・」
「・・・・・・まぁな」

 龍斗は疲れたのか地面にべたりと座り込むと、「はぁぁ〜」と大きく息を吐いた。
 そしてカッターシャツの胸の辺りをバフバフと扇ぐ。
 しばらく沈黙が続いた後で、彼は僕の顔を見て笑った。

「久々のサッカー。楽しかったろ?」
「・・・・・・あぁ」
「陽菜ちゃんもきっと、お前には楽しいことして欲しいと思うんだよ」

 龍斗の言葉に、僕は目を見開いた。
 彼はニッと歯を見せ笑う。

「俺が陽菜ちゃんだったら、そう思うな〜。俺のせいで大事な人が好きなこと我慢するとか、嫌だしな」
「お前女子じゃないのに、女子の気持ちなんて分かるのかよ」
「なっ・・・・・・今はそういうことにツッコんだらダメだ!」
「ダメってなんだよ・・・・・・はははっ」

 僕は龍斗が可笑しくて、笑ってしまった。
 笑う僕を見て、龍斗は不満げに唇を尖らせた。
 しばらく笑って満足した僕は、目尻に溜まった涙を指で拭い、「でも、そうだよな・・・・・・」と呟く。

「陽菜は多分、僕のこと一番、応援してくれてたと思う」
「な?だから、お前が頑張らないと、ダメなんだよ」
「まさか龍斗に諭される日が来るなんてなぁ。世も末だ」
「その言い方はねぇだろ!?」

 僕の言葉に大げさに反応する龍斗。
 それが可笑しくて、僕はクスッと笑った。

「でも・・・・・・うん。また、やってみるよ。サッカー」

 僕の返事を聞いた龍斗は立ち上がり、「よっしゃぁッ!」と叫んだ。
 それを見て頬が緩んだ時だった。

「友情ごっこがそこらへんにしてくれるかなぁ?虫唾が走る」

 突然、背後から声がした。
 振り返ると、この前襲ってきた、赤い髪の男が立っていた。

「お前は、あの時の・・・・・・えっと、誰だ?」
「いや、僕に聞かれても」
「桃太郎一行のクドツだアカ!」

 目の前に突然赤鬼が現れて、僕も龍斗も驚いてしまう。
 突然現れるなんて、卑怯だ。

「クドツ?変な名前だな」
「あれだよ。最近流行りのキラキラネーム」
「あー。納得」
「勝手に納得するな」

 クドツとやらは僕たちにツッコみを入れつつ、普通にサッカーグラウンドに入ってくる。

「まぁ良い。友情ごっこをしていたおかげで鬼を二匹同時に倒せるんだからな」
「キラキラネームが一人で何か言ってるよ」
「怖いね〜」
「勝手にキラキラネームとか言うな!」

 クドツは疲れた様子で額に手を当て、「はぁ〜」とため息をつく。
 よく分からないけど、お疲れさまです。
 その時、クドツの手元になにやら丸い塊が見えた。

「それは・・・・・・?」
「へぇ?君は観察力が高いようだね。これに気付くとは、な!」

 クドツの右手が動き、丸い物は凄まじい速さでゴールの中にあったボールにくっ付く。
 それは団子のようなもので、ボール全体を包み込み、やがて巨大なサッカーボールの化け物になる。

「ぁあ!サッカーボールが!キラキラネームのくせに生意気だぞ!」
「ここでキラキラネーム関係ないだろ。ダゴビキ!そこの餓鬼どもをやっちまえ!」

 クドツの言葉に、ダゴビキとやらは僕たちに迫ってくる。

「氷空、行くぞ!」
「おう!・・・・・・で、どうやって鬼になるの?」
「あぁ、手の甲に紋様みたいなもの、ないか?」
「紋様?そんなもの・・・・・・あった」

 龍斗の言葉に自分の手の甲を見ると、左手の甲にあった。

「よし。じゃあそれに力込めれば変身できるぞ」
「了解。じゃあ、行こう!」
「おう!」

 僕と龍斗は手を胸の前まで持っていき、力を込めた。
 そして、僕たちは変身した。