複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.12 )
日時: 2016/07/03 21:57
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」4

 自身の周りを覆った氷が割れると、気付けば青い服が体を包んでいた。
 顔を上げると、さっきまで走っていたサッカーボールのダゴビキ?は転がる突進にチェンジしており、ゴロゴロとこちらに向かって来ていた。

「転がるとかアリかよ!?」
「文句言う暇があるならさっさと避けろ!」

 僕は叫びつつ、横に跳んだ。
 二回目とはいえ、やはりまだ慣れず、飛びすぎて、なんとか立ち止まろうと地面に足をつけたら腰から下だけの速度が止まり、それより上の威力は止まり切らず、頭を地面に打ち付け、何度も地面を転がって、なんとか止まった。
 鬼というものはかなり頑丈なのか、痛みはあまりない。
 龍斗は慣れているようで、すでにダゴビキを斬っている最中だった。

「何やってんだよ氷空!アホか!」
「ご、ごめん。まだ慣れてなくて」

 僕は謝りつつ拳銃を抜く。
 拳銃は遠距離用の武器だ。無理に近づくより、遠くから射撃した方が良いだろう。
 とはいえ、拳銃の扱いなんて慣れていない。あんな混戦状態じゃ、下手したら龍斗に当たってしまう。

「何をやっているアオ!」

 その時、声がした。眼球だけ動かして見ると、手乗りサイズの青鬼が宙に浮いていた。

「なっ・・・・・・」
「なんで早く撃たないアオ!今お前の仲間はピンチなんだぞ!」

 コイツは、馬鹿か?下手したら、龍斗に当たってしまうかもしれないんだぞ?

「もし標準を誤ったら・・・・・・龍斗に、当たってしまうかもしれない。そうしたら・・・・・・」
「いつからお前はそんなに臆病になっちまったんだよ!」

 遠くから声がする。顔を上げると、龍斗が刀でダゴビキを受け止めながら、叫んでいた。

「お前は失敗を恐れて行動しないような、臆病者じゃなかったッ!お前は、たとえどんなに劣勢な試合の時でも、失敗するかもしれない指示でもとにかく出して、チームを優勝に導いてきたじゃないか!全国大会の時は、ちょっと失敗しちまったけどよぉ。あの時は俺のミスもあったから、気にすんな!」
「お前・・・・・・よくその状況でそんなに喋れるな」
「気にするところそこかよ!?そんなもん、気合でどうにかしてるに決まってるだろ」
「気合って・・・・・・」
「とにかくだ!自分を信じろ!俺に当たってもちょっとやそっとじゃ死なねぇよ!」

 熱血論というか、精神論というか。ハッキリ言って、無茶苦茶だ。
 でも、覚悟はできた。失敗したら、その時はその時だ。
 僕は拳銃を構え、ダゴビキの足元に標準を定める。そして、撃った。
 弾丸は真っ直ぐに、ダゴビキの足にヒットし、奴の体を揺らがせた。

「よしっ!」

 僕は小さくガッツポーズをした。
 龍斗は力が弱くなったのか、ダゴビキを思い切りぶった切って蹴り飛ばした。
 サッカーボールであるダゴビキは無様に転がり、ちょうどサッカーゴールに入って行った。

「おー。ゴールゴール。俺1ポイントな」
「でも試合運びを完璧にしたのは僕。だから、功績の八割は僕ね」
「でもゴールしたのは俺だから!」
「・・・・・・懐かしいね。このやり取り」

 僕が笑うと龍斗も白い歯を見せ、「そうだなっ」と笑った。
 僕は拳銃を肩にポンポンと置き、「じゃあさー」と話を切り出す。

「あのダゴビキを先に倒した方が勝ちで、どう?」
「おっそれ乗った。じゃあ負けた方が勝った方にジュース奢るってことで」
「おっけい」

 僕と龍斗は、ダゴビキに向き直る。
 ダゴビキはちょうどゴールにはまり、動けない様子だ。

「お前ずりぃよなぁ〜。拳銃だから、ここからでも攻撃できるんだから」
「運が無かったね。龍斗。ジュースは僕のものさ」
「そうはいくかっ」

 僕が拳銃を構えるのと同時に、龍斗は刀を構えダゴビキに迫る。
 僕は目を瞑って、前回やったように僕の中の怒りの感情を、拳銃に込める。
 引き金を引くと、青い弾丸が二発、ダゴビキの体に吸い込まれていく。
 そして、奴の体は凍り付いた。
 そこに、刀に炎を纏わせた龍斗が突進し、ダゴビキの体を切り裂いた。
 奴の体は燃え尽き、崩れ去った。

「ふぅ。終わったか。僕のおかげでね」
「待て待て待て」

 拳銃をしまいながら呟いた僕に、龍斗が近づいてくる。
 僕は首を傾げた。

「なに?」
「最後に手を下したのは俺だ。つまり倒したのは、お、れ」
「でも僕のおかげでしょ?大体、僕が撃ったおかげでああやってゴールにはめて動けなくできたんだし」
「おいおいおい。ルールが違うじゃないか。先に倒した方が勝ちだろ?誰のおかげかじゃなくてさ。つまり、倒した、俺の、勝ち。ОK?」
「それを言ったら、最後に技を食らわせたのは僕だ。だから、僕の勝ち」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 気付けば、空は夕陽で赤く染まり、カラスが鳴いていた。
 僕たちがそれに気づくのは、結局両方が折れ、引き分けという話になる、今から十分後のことだった。