複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.14 )
日時: 2016/07/05 21:43
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第4話「青鬼の復帰!始動する期末テスト」2

「だから、ここを代入してだなぁ」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 俺はテーブルに置かれた問題集を睨みつけながら、声を漏らした。
 それを見た氷空がわざとらしくため息を吐いたのが分かった。

「な、なんだよ!分からねぇんだから仕方ねぇだろ!」
「お前まさかここまで馬鹿だとは。この間の生物の小テストはまだ普通の点数だったから大丈夫かと思ったが、お前生物が普通なだけで後は全然ダメなんだな」
「うっ、うるせーな!さっさと教えろよ!」
「なんで怒るんだよ・・・・・・えっとな?ここのxに3を代入して・・・・・・」

 氷空の説明を聞きつつ、俺は問題集とにらめっこする。
 しかし、何度見ても、文字やら数字やらが脳内で踊っているような感覚になり、どうしても理解ができないのだ。
 混乱する俺を見た氷空はため息をつく。これで一体何度目だろうか。

「龍斗さぁ、理解する気あるか?まだ英語や、世界史や、国語だってあるのにさぁ・・・・・・」
「わ、分かってる!俺だって、これくらい・・・・・・」

 強がってはみるものの、そんなことをしたって答えは浮かび上がっては来ない。
 氷空は腕時計を見て、「しょうがない。十分間休憩な」とだけ言い、まるで電源が切れたように机に突っ伏して寝息を立て始めた。
 大人っぽい性格に不似合いな幼い寝顔を見て、俺は息をついた。

「何さっさと寝てんだよ・・・・・・つっても、もう12時か・・・・・・」

 俺は時計を眺めながら呟いた。
 氷空は、俺との勉強の為に親にも連絡をして、わざわざ泊まりに来ている。
 俺の家は、父さんは戦場カメラマンだったのだが、俺が生まれた時に死んじまって、母さんはピアニストとして有名で、毎日世界を飛び回っている。
 だから、俺はほんのたまにしか母さんとは会わず、ほとんど一人暮らし状態だ。
 これで彼女でもできれば家に呼び込み放題なのだが、残念ながら俺には彼女はいない。
 ただ、友達呼んで泊まり放題とも言えるが、高校に行ってからほとんどの友人とは離れてしまい、せいぜい目の前でスヤスヤと寝息を立てている氷空くらいしか、泊まりをするほどの仲はいない。あと健二もか。
 その時、ピピピッと氷空のスマホが鳴った。
 氷空は「んぅぅぅ・・・・・・」と声を漏らし、手を動かしてスマホを探す。俺は目の前にあったスマホを手に取り、氷空に渡した。
 彼は受け取ると音を止め、また寝息を立て始める。

「どんだけ疲れてんだよ、お前は」

 俺は呟きつつ、こんな格好で寝ていては風邪を引くかと思い、押し入れから客用の布団を取り出し、そこに氷空を寝かせた。
 俺より一回り小さな彼の体は、想像以上に軽く、すんなりと寝かせることができた。
 俺の家に来たときは「徹夜だ〜」とか言っていたくせに、自分が先に寝てどうするんだよ。
 俺は苦笑しつつ、彼のノートをまとめた。その時、一冊床に落ちてしまった。

「ヤバ・・・・・・」

 拾おうとしたとき、そのノートはたまたま開いていて、俺はつい驚いてしまった。
 そこには、予習の跡や、授業での補足、復習の跡などがびっちりと書かれていた。
 俺は好奇心に負けて、他のノートも見てしまった。
 どの教科も同じくらいの予習復習の跡があり、俺は口を開けて固まってしまった。

「コイツ・・・・・・すげぇ頑張ってたんだな」

 氷空は、中間テストでも全部クラス最高点だったと聞いていたし、頭が良いのは知っていた。
 でも、その裏にはこんなにも努力していたのだ。
 そんな日常にサッカーも加わって、俺への指導まで入ったら、そりゃ疲れるわな、と思った。
 俺は布団で眠る氷空に目を向け、微かに自然と笑みが零れた。

「ありがとな、氷空」

 俺は彼のノートやらをまとめ鞄に入れてやると、寝間着の半袖Tシャツの上着を捲った。
 氷空だって、元から完璧なんじゃない。俺だって、努力すれば多少はマシになるはずだ!
 そう思い、俺は問題集に取り掛かった。

 しかし、結局俺が自力で問題を解くことはできませんでした、まる。