複雑・ファジー小説
- Re: 心を鬼にして ( No.17 )
- 日時: 2016/07/14 21:57
- 名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
- 参照: http://naop.jp/mondai.html
第5話「先輩の夢を叶えよう!県大会の始まりだ!」1
スパイクが土を削る音がグラウンドに響く。
ボールを保持しているのは、キャプテンである緑川 修斗先輩だった。
華麗にディフェンスをかわした先輩は、そのままシュートをゴールに決めた。
「先輩かっけぇー!」
俺は興奮からそう叫んでいた。それを見た氷空は呆れた様子で俺を見ている。
だって実際、すげぇんだもん。先輩はシュート力だけじゃなく、チームを引っ張る能力、オフェンスやディフェンス能力もチームではピカイチなのだ。
「俺もいつか、先輩みたいに・・・・・・」
「でもさぁー、緑川先輩も、どんなに勝っても全国大会が終わったら引退なんだよなぁー」
後ろにいた健二の言葉に、俺は自分でも驚く速度で振り返った。
それを見た健二は驚いた様子で目を見開くが、すぐに頬をポリポリと掻く。
「なんだよその反応。当たり前だろ?先輩たちだって受験勉強とかあるんだしさ。ずっと部活ってのは無理なんだよ。ま、先輩がサッカー続けるなら、またどっかで一緒にプレイも出来るんじゃねぇの?龍斗はサッカー、続けるんだろ?」
健二の何気ない一言に、俺の顔は一瞬引きつった。
サッカーを・・・・・・続けるか、か・・・・・・。
サッカーは好きだ。大好きだ。そりゃ、サッカーで食っていけるなら、そうしたい。
でも、スポーツで食っていくことは難しいってことくらいは俺だって自覚している。
「俺は・・・・・・」
「氷空はどうするんだ?」
間が空いたせいか、健二はすでに氷空に話題を振っていた。
氷空は顎に手を当ててしばらく考えた後で、「んー。医者かな」と言った。
その言葉に俺は氷空の方に顔を向けた。
「医者?お前が?」
「ん?あぁ。ホラ、陽菜ってさぁ、事故でまだ目、覚めてないだろ?」
陽菜、という言葉を聞いて、俺は納得する。
なるほど、彼女のためにってことか。
「なるほどー。つまり、自分が医者になって、陽菜を助けようってわけか」
「んー。それもあるけど、本当の理由は、誰かの大切な人を守りたい、って感じかな」
「ほう。それはなんで?」
健二は興味津々と言った様子で、氷空に尋ねる。
氷空はそれに苦笑しつつ、答える。
「ホラ、なんか感動する系の話で、よく恋人とかが病気で死んじゃった〜みたいな話あるじゃない?現実でもさ、そうやって恋人とか、家族とかを失っちゃう人は多いと思うんだ。僕だって、死んだわけじゃないけど、大切な人を失う悲しみは分かっているから。だから、そういう人を、守りたくて」
そう言って恥ずかしそうにはにかむ氷空。
いつの間にかそれを聞いていた健二は微妙に涙ぐみながらうんうんと頷いている。
まぁ、確かに良い話だよな。俺もこんな夢欲しいよ。
「じゃあ、やっぱり先輩にも夢とかあんのかな」
俺はちょうどボールをとられ、それを追いかけ取り返そうとしている先輩に目を向けた。