複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.18 )
日時: 2016/07/18 15:52
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
参照: http://naop.jp/mondai.html

第5話「先輩の夢を叶えよう!県大会の始まりだ!」2

「このままじゃ俺たち・・・・・・クビ、だな」

 ソファに座ったクドツは、そう呟いて顔を歪めた。
 それを聞いたキモンはチッと舌打ちをして軽く目の前にあったテーブルを蹴る。

「物に当たるな。どうしようもないだろ」
「だからってよぉッ!このままジーケが帰ってくるまで仕方なく働いてるなんて、俺様のプライドが許さねぇ!」
「そう言ったって・・・・・・待てよ」

 クドツは顎に手を当てて一考し、何かを閃いたように目を見開く。
 しかし、すぐに首を横に振った。

「いや、流石にこれは無理か」

−−−

「今日も練習疲れたなぁー!」
「毎日それじゃん」

 部活が終わり、いつものように言った俺に氷空が苦笑いで言った。
 俺は唇を尖らせて「いいじゃんかよー」と言う。
 その時、鞄がゴソゴソと蠢いた。
 チャックを開けると、アカトがニュポッと顔を出した。

「りゅーとは最近オイラのこと放置しすぎだアカ!」
「だってお前ちいせぇしよぉ」
「なッ!?」
「そういやぁ、氷空にも青鬼いるんだよな?俺名前知らないんだけど」

 俺が聞くと氷空は目を丸くし、少し考えた後で言った。

「僕も知らない」
「はぁ?」

 予想外の解答に、俺とアカトは氷空の顔を見た。
 氷空は困ったように後頭部を掻く。

「だって、基本あの鬼とはあまり話さないし。家でも、ご飯とかあげる時以外は特に口も聞かないし」
「反抗期の息子かよ・・・・・・」
「お?氷空は親とは仲が良くないのか?」

 その時後ろから声がした。振り返ると、緑川先輩が立っていた。
 先輩は俺が持ってるアカトに目を向けて、「なんだ?それ。ぬいぐるみか?」と聞いてくる。

「あ、えっと、そ、そうなんですよー。あはは・・・・・・」
「こ、この前僕がゲーセンのユーフォーキャッチャーで取って!それを自慢していたんですよ」
「へぇ。相変わらず二人は仲が良いんだな」

 氷空の言葉を聞いた緑川先輩はそう言ってニカッと笑った。
 あぁ、爽やかすぎる・・・・・・。しかもイケメンだし、きっと勉強もできるんだろうなぁ・・・・・・羨ましい。

「ははっ。まぁ、ハイ」
「お前たちのコンビネーションはすごいって、康平が言ってたからなぁ。今は1年だから試合出れねぇけど、期待してるぞ!」
「俺たちが試合に出る頃には・・・・・・先輩はもう引退してるんですよね」

 俺の呟きに、先輩は一瞬笑みを引きつらせ、目を逸らした。
 俺は、自分でもよく分からないが、気付けば先輩に掴みかかっていた。

「俺!先輩のサッカー好きです!俺、いつか先輩とプレイしてみたいって思ってて・・・・・・」
「・・・・・・俺だってお前たちや、他の1年生とも一緒にやってみてぇよ」

 緑川先輩はそう呟くように言うと、足元にあった石を強く蹴った。
 それは何度か地面を削りつつ、遠くの電柱にぶつかる。
 先輩はそれを見て軽く舌打ちをした。

「でも、そういうわけにはいかねぇんだ。俺たちはどんなに頑張っても、全国大会までだからな」
「先輩・・・・・・」
「あの・・・・・・」

 その時、氷空が口を開く。
 彼はしばらく視線を彷徨わせた後で、小さな声で言った。

「健二が言ってましたけど、例えば、先輩がプロ目指してサッカーするなら、もしかしたら、一緒に出来る可能性もあるかもって」
「プロか〜。なれたらいいとは、思うけどな」
「じゃあっ!」
「でもなぁ・・・・・・ホラ、プロで食っていくのって、めっちゃムズイだろ?」

 緑川先輩は、そう言って悲しそうな笑顔を浮かべた。
 しかし、すぐにいつもの爽やかな笑顔を浮かべて俺の頭をポフポフと軽く撫でた。

「もうすぐ県大会なんだ!ここで負けたら、予定より早くサッカー辞めることになっちまうからな!お前らも応援しろよー?プロだとかは置いといて、今の俺の夢は、お前たち含めた今のメンバーで全国優勝することなんだからな!」

 先輩の言葉に、俺たちは「はいっ!」と頷いた。