複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.20 )
日時: 2016/07/25 21:22
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第5話「先輩の夢を叶えよう!県大会の始まりだ!」4

「試合終了!」

 ホイッスルと共に聴こえた声に、俺は点数が表示された掲示板を見た。
 一点差で、俺たちの学校が・・・・・・———勝っていた。

「やた・・・・・・やったぁぁぁあああああッ!」

 俺たちは歓喜し、ある者は涙を流し、ある者は跳び上がって喜んでいた。
 その時、俺の耳を掠めて何か丸い物が飛んでいくのが分かった。
 それは点数の掲示板にぶつかると、包み込み、ダゴビキにしていく。
 見ると、クドツがこちらに歩いてきていた。

「試合が終わるまで待ったんだ。文句はねぇだろ?」
「・・・・・・あぁ、そうだな」
「おい、龍斗、そいつは一体・・・・・・」

 俺たちの所に駆け寄ってこようとした健二の動きが止まる。
 空を見上げると、紺色に染まっていた。

「おい・・・・・・なんで、健二の動きが止まったんだ・・・・・・」
「ん?知らなかったか?この世界は鬼を持つ者以外は時間だとかも含め、止まるんだよ。今まで気づかなかったのか?」
「俺たちは命がけなんだから、そんなこと気付くわけないだろ!」
「一応鬼死んでも命は無くならないけどね」

 氷空の冷静なツッコミに俺は「そうだっけ」と笑いつつ右手を構える。

「とにかく、行くぞ!」
「あぁ!」

 変身しようとした、その時だった。
 突然ダゴビキに、サッカーボールがぶつかる。
 あまりに唐突な出来事に俺たちは「へ?」と間抜けな声を漏らした。
 飛んできた方向を見ると、なんと緑川先輩が何かを投げた体勢で立っていた。

「み、緑川先輩ぃッ!?」
「まさか、先輩も鬼を・・・・・・?あ、確かに持ってそう、鬼」
「あー!言われてみれば!」
「龍斗!氷空!怪我はないか!」

 駆け寄ってきた緑川先輩に、俺たちは苦笑いを浮かべつつ顔を寄せる。

「どうすんのさ。流石に先輩の前じゃ変身できないぞ」
「なんとか先輩を気絶させるしかないだろ。頭を何かでぶん殴って」
「じゃあ水筒で」
「死ぬわ」
「俺の後輩たちに手出しはさせないッ!」

 俺たちの前で両手を広げ、言い放った緑川先輩を見て、俺はつい見惚れてしまった。
 俺より大きな背中で、それよりも大きな化け物に立ち向かおうとしている。

「先輩って・・・・・・かっけーな・・・・・・」
「やっぱお前、ゲイだろ」
「ちげーよ。単なる憧れだし、お前だって、かっけーとは思うんだろ?」
「・・・・・・まぁ、ね」

 そこまで考えていた時、突然先輩の体がぶっ飛んだ。
 地面を転がり、しばらくして動かなくなる。

「「先輩ッ!」」

 俺たちはすぐに先輩に駆け寄る。
 氷空が先輩を仰向けにして、首元に手を当てる。
 鼻にも手をあてがい、息をフゥ、と吐いた。

「大丈夫。ちょっと頭殴られて、気絶しちゃっただけみたい」
「そうか・・・・・・良かった・・・・・・」

 俺は安堵の息を漏らしつつ、立ち上がりダゴビキに向き直る。

「よくも先輩を・・・・・・ッ!行くぞ!氷空!」
「ОK。龍斗」

 手の甲の紋様に力を込め変身すると、すぐに剣を抜きダゴビキに突っ込んだ。

「どおりゃああああああああああああああああッ!」

 剣に炎を纏わせ斬りつける。しかし、かわされた。
 なんとか右腕は切り落としたが、左手が襲い掛かる。

「うわぁッ!?」
「龍斗ッ!」

 目を瞑るのと同時に、金属が擦れるような音がした。
 見ると、氷空が拳銃の鎖を絡めさせ、踏ん張っていた。

「氷空!」
「う・・・・・・おおおおおッ!」

 鎖をさらに強く引っ張ると、ダゴビキは音を立てて倒れた。
 氷空は鎖を回収し後ろに跳び、「今だ!」と叫んだ。
 俺は頷き、改めて刀に炎をまとわせ、切り裂いた。

−−−

「ん・・・・・・あ・・・・・・」

 ベンチの上で眠っていた先輩は目を開け、上体を起こした。
 それを見た俺たちは、すぐに先輩に駆け寄る。

「先輩大丈夫ですか!?急に倒れてるものですから、ビックリして・・・・・・」
「そうだ!化け物が出て、それで・・・・・・あ、龍斗と氷空は!?」
「俺たちがどうかしましたか?」

 俺と氷空が出ると、緑川先輩は驚いた様子で目を丸くした。
 しかし、すぐに立ち上がると、俺と氷空の元まで駆け寄ってくると、俺たちの体を隅々まで見始める。
 しばらく調べて、「怪我は、無さそうだな・・・・・・」と安堵した表情を浮かべた。
 先輩ってやっぱり優しいし、かっけーし、すげぇ人だよなぁ、と思う。
 でも、じゃあ、そんな先輩の信念ってどんなやつなんだろう?

「あ、そういえば、化け物は!?」
「ば、化け物ー?何の話ですか?先輩、倒れたせいで変な夢でも見たんじゃないですかー?」

 俺のわざとらしい誤魔化し方に、氷空が俺の足を思い切り踏みやがる。
 それに俺は「うぐッ!?」と声を漏らした。
 すると、3年のエースの、新島 康平先輩がやって来て、先輩の額を指で突く。

「ホラ、色んな人たち待たせてるんだぞ。閉会式、お前が出なくてどうする」
「あ、そっか・・・・・・俺たち、全国行けるんだもんな!」

 先輩はそう言って歩いていくので、俺たちも付いていく。

「もしも、先輩の鬼も覚醒して、仲間になってくれたらさぁ・・・・・・」
「ん?」
「俺、すっげぇ嬉しい」

 俺は笑顔を浮かべながら言う。
 それに氷空も「そうだな」と笑った。