複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.22 )
日時: 2016/07/27 11:19
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第6話「魔の修了式!赤鬼、新しい力!」2

 廊下の窓を拭いていた僕は、フゥ、と息をつく。
 今日が終われば夏休み。しかし、今年の夏休みは今までと違うものになるだろう。
 高校生だから、とかではなく、鬼とやらの覚醒のことがあるからだ。

「結局鬼とか・・・・・・意味わからないんだけどさ」
「鬼って言うのは〜」

 僕の独り言に反応するように、突然目の前にアカトが現れる。
 僕は慌てて彼の体を両手で鷲掴み、喋れないように胸に抱き寄せる。

「氷空君どうしたの?胸、苦しいの?」

 その時、ゴミ捨てをしに行こうとしていた同じクラスの山崎さんが僕の顔を覗き込んでくる。
 僕は慌てて右手を顔の前でブンブンと振り、「なんでもないよ!」と答える。
 それを見た山崎さんは、「それならいいんだけど」と言いながら去って行く。
 僕はなんとか壁と僕で隠れる場所にアカトを持ってくると、すぐに問いただす。

「おいアカト・・・・・・なんでこんな所に」
「いやぁ、りゅーとの鞄が開いていたから、出てきたんだアカ」
「出てきたんだアカ、じゃないよ。龍斗に怒られるぞ」
「龍斗ならさっき会ったぞ。それで、逃げてきた」
「えっ」
「アカトおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!どこだあああああああああああッ!」

 廊下の向こうから聴こえた聴き覚えのある声に、僕は視線を向けた。
 そこでは、濡れた雑巾片手に龍斗が鬼の形相で立っていた。
 僕は周りを見て僕に視線が向いていないことを確認すると、龍斗に見えるように少しだけアカトの頭を見せた。
 それを見た龍斗は「そこかああああああああッ!」と言うと、なぜか雑巾を床に置き、雑巾がけでこちらまで突進してきた。
 そして僕の所でピッタリ止まろうとしたようだが、勢いが収まりきらず、滑っていく。
 しばらく滑って、そして徐々に曲がっていき、隣のクラスのドアの所まで行ってしまう。
 そしてドアから出ていた眼鏡の少年にぶつかった。

「何やってるんだよアカト」
「はっはは・・・・・・悪い。失敗失敗」
「笑い事じゃないっての。そうだ、アカトを・・・・・・」
「赤桐君!」

 その時、明らかに怒気を孕んだ声が聴こえた。
 顔を上げると、眼鏡の、えっと・・・・・・松木君が眼鏡の位置を正しながら龍斗を睨んでいた。

「赤桐君。今は大掃除の時間であって遊びの時間ではありません!」
「分かってるよ!でも仕方ねぇだろ!だってアカトが・・・・・・」
「あはははごめんね松木君!コイツは僕がちゃんと叱っておくから」

 龍斗の口を塞ぎ、僕は慌てて弁解する。
 ついでに襟の後ろからアカトを突っ込み、耳元で「隠しきれよ」と言っておく。

「そうは言っても、赤桐君は人の言うことを聞くようには思えない!たとえ、学年一位の君の言うことでもね」
「あはは・・・・・・まぁ、でもさ、真面目じゃないだけで人の言うことを聞かないわけでは」
「そういう考えが甘いんだ!」

 バンッと壁を叩くので、僕も龍斗も肩をビクッと震わせた。

「僕はこの学校から規律を破る生徒を無くすために学級委員になり、学年代表になったんだ!」
「へぇ。それは素晴らしい夢だね。じゃ、頑張ってね〜」
「あ、ちょっと待って!まだ話は・・・・・・」

 止めようとする松木君の言葉を軽く無視しつつ、僕は龍斗を引きずって、外の水道の元まで向かった。
 その辺りには人がいないので、アカトや龍斗が叫んでも大丈夫だと思ったからだ。

「あああああああああッ!なんなんだよアイツ!憎たらしい!」
「ウザいぞアイツ!」
「うわぁ、すごい。正義の鬼とその覚醒者が人の悪口を平然と言ってらぁ」
「言ってらぁって、お前のキャラが掴めねぇぞ?」
「お前らの相手して疲れてんだよ」

 僕はそう言いつつ軽く背伸びをした。
 その時、チャイムが鳴ったのが分かった。掃除終了の合図だ。

「・・・・・・よしっ。まぁ、あと修了式とLHRすれば夏休みじゃないか。もうひと踏ん張りだよ」
「そ、そうだなっ!よっしゃ。頑張るぞー!」
「おー!」
「アカトは大人しく鞄の中入ってなさい」
「なッ!?」

 そんなグダグダした会話をしながら、僕たちは校舎に戻った。