複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.27 )
日時: 2016/08/05 22:36
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第7話「鬼と人の絆?青鬼、新しい力!」3

 しばらくして自転車を止めると、僕は青鬼に「着いたぞ」と言ってやる。
 青鬼は恐る恐ると言った様子で僕の肩越しに僕の視線を追う。
 そこにあったのは・・・・・・———真っ青な海だった。

「これは・・・・・・」
「海だよ。もう夏だからな、たまにはこういうのも良いだろ?」

 とりあえず、他に自転車が留まっている辺りに自転車を留め、砂浜に行った。
 柔らかい砂浜を歩いてしばらく行くと、人気のない岩場のような場所に着いた。
 僕は青鬼を肩から掌の上まで持ってくると、岩に腰掛けた。

「綺麗だろ?僕、結構お気に入りなんだよね、ここ」
「あぁ。すごく・・・・・・大きいし・・・・・・綺麗だ・・・・・・」

 青鬼は、目を丸くしながらそう言う。
 僕は一度青鬼を膝の上に置き、リュックを下ろすと、中からコーラの入ったペットボトルを取り出し、ふたを開ける。
 プシュッと音を立てて、自転車の震動が伝わっていたのか、泡と液体が微量噴き出してくる。
 それをズボンでふき取りつつ、キャップの中にコーラを注いだ。
 そのコーラも、また零れてしまい、僕のズボンを濡らした。
 僕は零さないように慎重に、青鬼にキャップを渡す。

「これは?」
「コーラ。美味しいぞ」

 僕はそう言いつつ、ペットボトルに口を付けて一気に4分の1ほど飲み干す。
 口にシュワシュワした感覚が走り、少し遅れてコーラの味が広がる。
 見ると、青鬼はキャップに口を付け、チビチビと飲んだ後で、顔をしかめた。

「そら。これなんか、辛いぞ。喉の奥が変な感じだ」
「辛い、か・・・・・・?甘くて美味しいと思うけど、まぁ、好き嫌いとかあるからな」

 僕はそう笑ってやりつつ、海を見た。

「僕の名前の由来ってさぁ・・・・・・この海なんだって」
「え?そら、なのにか?」
「僕の両親、変わってるんだよ。僕が生まれた家って、元々海がよく見える場所だったんだよね〜・・・・・・あ、ホラ、あそこ」

 僕はそう言いつつ、少し遠くにある高台の上の一ヶ所を指さす。
 そこには、ホテルが建っていた。

「オーシャンビューのホテル建てるからって、買収されて追い出されちゃった」
「おーしゃんびゅー?」
「海がよく見える部屋のあるホテル、とでも言うのかな。僕もよく分からないんだけど」

 僕はそう言いつつ、コーラを少し飲む。
 口の横から垂れたコーラを手の甲で拭いつつ、「んで、名前の由来ね」と話を続ける。

「僕が生まれた日、その日はすごく良い天気だったんだって。それで、海に青空が綺麗に映って。だから、無限に続く空を写し出せるくらいに大きな海のように、広い心を持ってほしいって」
「でも、そらって漢字で書くと、氷に空、だろ?海はどこに・・・・・・」
「氷って、水に点を足したようなものだろ?だから、海の代わり」
「よく分からないぞ・・・・・・」

 青鬼はそう言って、コーラを一飲みした。
 苦手って言う割に飲むじゃん、と言おうと思った時、波がバシャッとかかった。
 僕も青鬼もビショビショになり、青鬼のコーラはキャップごと攫われていた。

「あぅ・・・・・・そら、コーラが無くなっちゃったぞ・・・・・・」
「また分けてあげるよ。それより、濡れたし、もう帰るか」

 僕はリュックを背負い(防水で良かった)、青鬼の体を持って岩の上を歩いて砂浜に出る。
 スニーカーの中身もグショグショになっていて、正直気持ち悪かった。

「そういえば、コーラ嫌いって言ってた割には、ちょっと飲んでたよね。どういう心境の変化?」

 気持ち悪さを紛らわすために、僕は青鬼に聞いてみた。
 彼はしばらく考えた後で、答える。

「拙者は・・・・・・そらのことは、何も知らなかったアオ」
「まぁ、そうだな」
「今だって、まだ知らないことだらけ。でも、折角そらの鬼として生まれたんだから、そらともっと、仲良くしたいアオ」

 青鬼の言葉に、僕はしばらくポカンとしてしまった。

「そうだよなぁ・・・・・・この名前みたいに、僕も、人外生物を受け入れる心の広さを持たなくちゃ、な」

 僕が笑うと、青鬼は嬉しそうに目を輝かせた。

「あっ、そういえば、拙者の名前をまだ言ってなかったな・・・・・・拙者は」
「おうおう。鬼少年が一人でこんな所歩いてらぁ」

 声がした方向を見ると、たしか、キモン、とか言ったか?金髪の男が、立っていた。

「一人じゃない!」

 僕はつい叫んでしまった。
 それを聞いたキモンは視線を動かし、僕の手の中にいる青鬼に目を向けた。
 僕は咄嗟に彼を背中に隠した。

「はははっ!まさかお前、その鬼を戦力に数えるつもりか!」

 嘲笑するキモンに、僕の中で何かが吹っ切れた。
 僕はすぐに青鬼を放し、小声で「早く逃げて。ていうか龍斗を呼んできて」とだけ言い、左手を構えた。
 キモンは辺りを見渡すと、ちょうど海から上がって来た男に丸い物体を食べさせ、黒い鬼を出現させた。
 正直、僕一人で勝てるわけない・・・・・・。でも、龍斗が来るまで時間稼ぎをしないと!
 空が紺色に染まる時には、僕は変身を終え、銃を構え鬼に向かって突進していた。