複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.32 )
日時: 2016/08/09 22:20
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第8話「夏だ!海だ!合宿だ!サッカー部地獄の合宿開始!」4

 外から聴こえた轟音に、俺の目は覚める。
 体を起こしドアを開けると、空の色に異変を感じた。
 見ると、それは綺麗な紺色になっていた。
 俺はすぐに部屋に戻ると、なんだか可愛らしく掛け布団を抱いて眠る氷空の顔をペチペチと叩いた。

「んぅ……もう食べられないよぉ……」
「なんつー王道の寝言を……」

 俺は呆れつつ、冷静に氷空が残していたスポーツドリンクを取り出し、顔にぶっかける。
 すると、しばらくして顔をびしょびしょにした氷空が飛び起きた。

「ぶへぁッ!えっ、何!?」
「早く来い!説明は後だ!」

 俺はまだ寝ぼけ眼の氷空の腕を強引に引っ張り、外に連れ出す。
 そこでは、黒い鬼が暴れていた。

「またこれか!」
「いいや。今回のはなんか……気迫が違うというか……」
「ククッ。気付いたか」

 その時、どこからか声がした。
 視線を向けると、そこには黄色の髪の男、キモンが立っていた。

「あー!お前は桃太郎一行とやらの……キモン!」
「なんだ今の間」
「龍斗!なぁ、あそこに倒れてるのって……」

 氷空の言葉に、俺は視線を動かし、彼の視線を追う。
 そこには、見覚えのある人が倒れていた。

「緑川先輩!?」
「まさかこれ……緑川先輩の鬼から?」
「フッ。やっと気づいたか。やれ!」

 鬼が振り下ろした金棒を避けつつ、俺たちはすぐに変身をした。
 そして俺は刀を構え、距離を詰める。
 先輩を巻き込んだ怒りを、刀に込める!

「はぁぁぁああああああああああああああああああああああああああッ!」

 叫び、業火を纏った刀を振り下ろす。
 しかし、それは弾かれ、腹の辺りに金棒を喰らった。
 血を吐き、俺は地面をバウンドした。顔を上げると、黒い鬼が俺に金棒を振り上げようとしていた。

「ぁ……」
「龍斗ッ!」

 その時、空色の二匹の龍が鬼にぶつかり、肩を一瞬凍らせる。
 それに顔をしかめた黒鬼は、氷空に顔を向ける。
 俺は鬼の足元を斬りつけるが、何の反応もない。

「グッ……」
「何やってんだよ!龍斗!」

 その時、ドンッと肩を突き飛ばされた。
 見ると、苛立った様子の氷空がいた。

「え?えぇ??」
「えぇ?じゃねぇ!何ミスってんだよ!」

 さらに強く突き飛ばされると、俺は尻餅をつく。
 急にどうしたんだ?コイツ。そう考えている間に、胸倉を掴まれ顔を近づけられる。

「っぐ……」
「今からあの龍のやつを、龍斗に撃つぞ」

 小さく呟かれたことに、俺は目を見開く。
 氷空はチラリとキモンの方を見ると、さらに顔を近づけ、囁いてくる。

「あの龍のエネルギーをお前にぶつける。その力を使って、お前はあの火の奴使え。ぶっつけ本番だし、喧嘩の演技するから掛け声とかもできないけどな」
「あ、あぁ……分かった」

 俺がそういうと、氷空は「あーもうマジうぜぇ!」と俺の胸倉を離し、黒い鬼と逆の方向へと歩いていく。
 どうでもいいけど演技上手だな。氷空。

「前からずっとお前にはイライラしてたんだよ!馬鹿だし何も考えずになんにでも突っ込むしさぁ!もうこれ以上は無理!」

 ……なぁ、それ本当に演技?
 ていうか、キモンすごい笑ってるし。もう俺よく分からないよ。

「これで終わりな!もう金輪際僕に関わるな!」

 彼はそういうと、空色の龍を撃ってくる。
 俺は刀を握り締めてそれを待ちかまえ、やがて、綿あめを絡めとる感じで刀に龍のエネルギーを纏わせる。
 そしてそのまま力を込め、そのエネルギーと共に炎も纏わせた。
 青い業火に包まれた刀を握り締め、真っ直ぐ鬼を睨み付ける。

「うおおおおおおおおおおおおおらああああああああああああああッ!」

 叫びながら、俺は跳び、鬼を切り裂いた。
 真っ二つに裂けた鬼の体を、巨大な氷塊が包み込み、やがてそれは崩れ去る。
 それと同時に小さな鬼のような生物が現れ、それは縮こまるような体勢になると、緑川先輩の胸の中に消えていく。
 気付けば、キモンはいなくなっていた。

「ふぅ……それじゃあ龍斗、先輩運ぶぞ」
「あ、あぁ……」

 先ほどの演技のこともあり、俺は曖昧に返事を返すことしかできなかった。
 それを見た氷空はため息をつき、俺の額に人差し指を当てる。

「あれは演技。冗談だよ。馬鹿なのも何も考えずに行動できるのも、お前の良いところじゃん」
「本当?」
「信頼感ねぇなー。んっ」

 氷空はムッとしながら小指を出してくる。
 それを見た俺は首を傾げてしまった。

「えっと……?」
「指切りげんまんだよ。幼稚だけど、とりあえず今はこれで我慢しろよな」

 氷空の言葉に俺は頷くと、指を絡めた。

「じゃあ、僕たちはずっと親友!」
「あぁ!」
「じゃっ、先輩運ぶから手伝えよ」

 氷空の言葉に俺は改めて頷き、氷空と一緒に緑川先輩の体を抱え、部屋に運んでやった。