複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.35 )
日時: 2016/08/12 22:02
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第9話「正体がばれちゃう!?鬼の決断!」3

 最終日の晩御飯は、なんとバーベキューだった。
 どうやら、旅館からバーベキューコンロがいくつか貸し出されたらしく、それで肉を焼き、俺たちはそれを頬張った。

「おい、龍斗。肉ばかりじゃなくて野菜も食えよ」

 肉ばかりが盛られた俺の取り皿に、赤く、焦げ目がついたニンジンが置かれた。
 見ると、氷空があきれた様子で立っていた。

「いや、それでニンジンってのはちょっと……」
「キャベツもピーマンも玉ねぎだってあるからな。たっぷり食えよ」
「いや、その……」
「食えよ」
「……はい」

 氷空の気迫に負けて、俺は肉でニンジンを口に含む。
 ポリポリとニンジンを齧っていた時、たまたま遠くの丸太に座っている緑川先輩の姿が見えた。
 先輩は、何かを食べるわけでもなく、ただ座っていた。
 もしかして、足が痛くてこういう立食とかできないんじゃ……。

「何ボーッとしてんだよ。まだ野菜はあるのに」

 氷空の言葉を無視して、俺はもう一個取り皿を取ると、肉や野菜を乗せていく。
 緑川先輩の食べ物の好き嫌いとかはよく分からないので、とりあえず色々乗せる。
 やがて俺の皿の上には、肉と野菜が山盛りに乗っていた。

「おー。龍斗は良く食うな〜。よっしゃ、俺も食うぞ〜」

 そう言って肉を取り始める健二に苦笑しつつ、俺は皿を持って緑川先輩の元まで行った。
 歩いてくる俺を見た緑川先輩は、驚いた様子で目を丸くした。

「龍斗、それ……」
「足痛いのかなって。だから、持ってきました」

 皿を差し出すと、先輩は困ったように笑った。

「ありがとな。でも、なんでまた……」
「だって先輩、足が痛いから……こういう立食をしないんじゃないかって」

 俺も言葉に、先輩はカッと目を見開き、しばらくしたあとで「あー……」と声を出す。
 そして視線を左右に泳がせた後で頬をポリポリと掻く。

「いやぁ……これは……ははは」
「ははは、じゃないですよ。全く先輩は……」

 俺がため息交じりに言うと、先輩はすまなそうに笑った。
 俺は先輩に皿を渡すと、バーベキューの場所に戻ろうとした。
 すると、服の裾を引っ張られる感覚があったので振り返ると、先輩だった。

「えっと……なんですか?」
「いや、折角だからさぁ、一緒に食わねぇ?なんだかんだで、一人じゃ寂しくってよ」

 先輩はそう言ってはにかんだ。
 まぁ、先輩の願い事を断る理由もないし、俺は「良いですよ」と言いつつ、隣に座った。
 そして、氷空に入れられたニンジンを肉で挟み、口に運ぶ。

「にしても……結構入れてきてくれたんだな」
「え、多かったですか?先輩、大食いそうだから、むしろ足りないかと思ったんですけど」
「いや、ちょうどいいよ。ありがとな」

 先輩はそう言ってキャベツで肉を包むと、口の中に含む。
 そして何度か噛んだ後で「美味いっ!」と言った。

「いやぁ、後輩に持ってこさせた食い物は美味いなぁ!」
「今回だけですからね〜。大体、立食もできないような状態なら、普通安静にしなくちゃダメですから」

 俺が言うと、先輩は首の後ろの辺りを掻いて、「悪い悪い」と言った。
 その時、突然足音が聴こえた。見ると、えっと……クドツ、が歩いてきていた。

「あっ、お前は……」
「ん?なんだ知り合いか?」

 暢気な口調で言う先輩に、俺は言葉を詰まらせた。
 その時、別の方向からこちらに近づいてくる足音が聴こえた。
 キモンの方かと思い振り返ると、それは豆川先輩だった。

「えっと、誰ですか?ここは鬼瓦高校の貸し切りなので、できれば通らないで欲しいのですが……あっ、客人の場合は監督に案内を……」
「ちょうどいい。お前に決めた」

 クドツはそう言うと、懐から丸い物体を取り出し、豆川先輩に近づく。
 豆川先輩はそれを不思議そうに見ている。
 俺は咄嗟に庇おうと前に出たが、緑川先輩に肩を掴まれた。

「な、何を……ッ!」
「あれって、修了式の時の人だろ?」
「えっ……あぁ、ハイ……」
「だったらお前が危ない。アイツは変な化け物を出すからな」
「うぅ……」

 確かに、改めて考えてみれば、俺は鬼の覚醒者。
 俺からあの黒鬼が出されたら、前に緑川先輩から出されたような強いのが出ちまう。
 そうなった時戦えるのは氷空だけ。アイツだけじゃ、あの鬼は倒せない。
 そう考えていた時、目の前に巨大な影が立ちはだかる。
 顔を上げると、黒い巨大な鬼が立っていた。

「あっ……」
「おい……なんだこれ……」

 先輩は、その場で腰を抜かしながら言う。
 その時、氷空が走ってくるのが見えた。

「氷空ッ!」
「龍斗。これって……」
「豆川先輩だ」

 その時、俺はあることに気付く。緑川先輩が、今、この場所にいる。
 多分、どこかに隠れて変身しても、心配して探しに来るだろう。
無理もさせたくないし、ばれる可能性が高い。
 とはいえ、逃がそうにも、今足が負傷中。
変身後ならまだしも、今の俺たちじゃトロトロしてる間に、捕まっちまう。

「キャプテン!」

 その時、氷空の言葉に俺は顔を上げた。

「逃げてください!ここは、僕たちがなんとかするので!」
「そんなことできるわけないだろ!むしろ、俺がなんとかしないと……ッ!」

 そう言って無理に立とうとする先輩の肩を……気付けば俺は、押さえていた。
 力を込め、先輩を強引に座らせると、氷空に視線を向ける。

「龍斗……?」
「氷空。変身するぞ」
「……は?」

 氷空は俺の顔を見て、眉を潜めた。
 先輩は、何のことか分からないと言った様子で首を傾げている。

「何を、言って……だって、今、先輩が……」
「でも、こうするしかねぇんだよ。今は」
「そんな……先輩さえどうにかできれば!」
「理由は後だ!」

 俺が声を張り上げると、氷空は一度肩をびくりと震わせた。
 そして、しばらく考えた後で、「何かあっても知らねぇからな」と言った。
 俺はそれに頷き、そして、変身をした。