複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.36 )
日時: 2016/08/14 17:02
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第9話「正体がばれちゃう!?鬼の決断!」4

 変身を終えた俺たちは、ゆっくりと目を開く。

「な……は、え……?」

 その一部始終を見ていたであろう先輩は、丸太の上にへたりこんだまま目を見開き、声を漏らす。
 まぁ、普通はこういう反応なんだろうなぁ。氷空を見ると、彼はムッとした表情で俺を睨んでいる。

「氷空ぁ。そうやって睨むことはねぇだろ〜?」
「ばらしたらダメだって言われてるのに……まぁ、なんでダメかとかは知らないけど」

 氷空はそう言って嘆息すると、すぐに拳銃を抜いて俺を見た。

「旅館の自販機で飲み物一本。とりあえずそれで今のところは許してやる」
「おー!ありがとな!」
「その代わり、もしも何か問題があったら責任の8割はお前だから、そこの所よろしく」
「うぅ……はい……」

 俺は返事をしつつ、刀を構えた。
 目の前では、このやり取りをずっと待っていたのか、黒鬼がいらだった様子で立っていた。

「会話がなげぇんだよ!俺様がどれだけ待ったと思ってる!」
「じゃあ会話を待たずに攻撃してくれば良かったのに」
「あぁ、なるほど」
「お前馬鹿だろ」

 俺はそう言いつつ、刀を構えて走った。
 そこに、横から金棒が振られる。俺はそれをジャンプしてかわした。
 すると、その金棒の方向に、動かないサッカー部員達がいることに気付いた。

「やばっ……」
「うおらぁぁあッ!」

 氷空が、めずらしく声を荒げながら、拳銃の鎖を金棒に絡める。
 砂浜の柔らかい砂に足を踏ん張らせ、何度も引きずられる中、なんとか金棒を止めた。
 その金棒は、すでに一番近くにいた2年生の先輩の鼻先に触れるか触れないかくらいの距離だった。

「ぐっ……はぁっ……」

 氷空は一度深呼吸をすると、鎖ごと背負い投げをして鬼を吹き飛ばした。
 それを見ていた緑川先輩は、口を開けたままぽかんとしていた。

「ここには先輩以外にも、たくさん人がいすぎる!人がいない場所に移動するぞ!」

 氷空はそう言って立ち上がると、黒鬼に数発銃弾を撃って自分に気を引き付けると、砂浜を駆ける。
 俺はそれを追いかけようとしたが、先輩が気になったので、振り返った。
 すると、先輩は恐怖と驚愕が混ざった様子で目を見開き、俺を見ていた。

「先輩、少しここで、待っていてください」
「え、いや、あの……」
「後で全部……説明しますから」

 俺は無理やり笑顔を浮かべると、氷空を追いかけた。
 柔らかい砂浜を駆け抜けて行くと、そこでは氷空がちょうど、双龍の奴を使って黒鬼を倒したところだった。
 氷塊が砕け散ったのを確認し、氷空は俺を見て、子供っぽく頬を膨らませた。

「いや、これはその……」
「なんで来なかったんだよー」
「えっと……」
「……」
「……ごめんなさい」

 俺が謝ると、氷空は「よろしい」と、まだ少し不機嫌な様子の声色で言った。
 そして俺たちは変身を解き、バーベキューの場所に戻った。
 するとそこでは、先輩が丸太に座ったまま呆然としていた。

「えっと、先輩……あの……」
「あっ、龍斗っ!氷空っ!」

 先輩は立ち上がると、腫れた片足を引きずりながら近づいてくる。
 無理しないで、と言おうと思った時、肩に手を置かれた。

「大丈夫か?怪我とか」
「えっと……大丈夫、です……」
「ていうか、怪我してるの先輩の方じゃ……」

 俺の言葉を無視しながら、先輩は胸に手を当てて、「良かったぁ」と安堵の表情を浮かべる。
 その笑顔に、俺も氷空も面食らってしまう。
 その時、3年の先輩が緑川先輩を呼ぶ声がした。

「修斗〜。こっち来て、一緒に肉食おうぜ〜!」
「あ、あぁ!今行くよ!」

 先輩はそう返事すると、腫れている足を庇いながらも歩いて先輩達の方に向かった。
 そこで、俺はあることに気付いた。氷空もそれに気づいたらしく、二人で顔を見合わせて言った。

「「先輩にちゃんと説明してない!」」

 正体をばらすことは、思っていたよりも色々複雑だったみたいです。