複雑・ファジー小説

Re: 心を鬼にして ( No.40 )
日時: 2016/10/31 22:09
名前: 凜太郎 (ID: uzSa1/Mq)

第10話「先輩の信念!緑鬼誕生」4

「うおーなんだこれ」

 俺は自分の服装を眺めながら、なんとなく呟いた。
 いやー、風に包まれたと思ったらこんな格好になるとは。人生、何が起こるか分からないね。

「センパッ……前!」

 その時、氷空がそう叫んだのが聴こえた。
 顔を上げ化け物を見ると、すでに石柱のような腕を振り下ろし、俺に殴りかかる勢いだった。

「先輩!」
「うおっと……」

 とりあえず、横に跳んでそれをかわす。
 すると、軽く跳んだだけなのに、横に跳びすぎてそのまま公園の端のフェンスにぶつかった。

「いっ……たくねぇな、これくらい!」

 思いのほか痛くなかったのですぐに立ち上がり、一気に走って化け物との距離を詰める。
 その時、横から電柱が思い切り振られるが、それを跳んでかわす。おぉ、大分感覚が分かってきた!
 そのままクルリと空中で回転した俺は、化け物に思い切りかかと落としを喰らわせた。

「これで一丁上がりか?」
「まだだミド!」

 一人で呟いた言葉に、急に目の前に現れた緑色の小さな鬼が言う。

「うお!なんだこの鬼!」

 俺が叫ぶと、鬼は「それどころじゃないミド!」と言って、化け物に視線を向けた。

「あのダゴビキへの怒りを、その薙刀に込めて技を放つミド!」
「ダゴビキって何だよ!?っていうか、薙刀って……これか」

 背中に何か棒のようなものが背負ってあったので、取ってみると、それは薙刀だった。
 長い棒の先に、短い刃がキラリと光る。
 俺は、倒れる後輩二人を見て、フゥ、と息をつく。

「俺の後輩を傷つけた罪、償ってもらう!」

 薙刀を構え、強く踏み込み、一気に化け物との距離を詰める。
 薙刀の刃先にかまいたちのような風が纏われるのを見て、強く握りしめる。
 そして、化け物を斬ろうとした瞬間、目の前から化け物が消える。

「なっ!?」
「上っ……」

 龍斗の言葉に、俺はすぐに顔を上げた。
 そこでは、どういう跳躍力をしているのか、化け物が俺の頭上にいた。
 そして、空振った薙刀は空気の流れを切り裂き、空中に僅かにつむじ風が起きていた。

「そうだっ!」

 俺は強引に体を捻り、そのつむじ風に風を集めるようにして、やがて風の球を作ることができた。
 そして、まだ空中にいる化け物を睨む。

「いっけえええええええッ!」

 風の球を蹴り上げると、それは空高く昇っていき、やがてそれは化け物の体にぶち当たる。
 中には、俺の薙刀に纏われていたかまいたちも入っていたようで、化け物の体は八つ裂きになって、消えていった。

「ふぃー……あっ、龍斗、氷空、大丈夫か!?」

 俺はすぐに二人の元に駆けよったが、二人は何かを呟いて変身を解くと、怪我はまるで無かったことのように治り、普通に立ち上がってしまった。
 それを見て唖然としていると、龍斗が「あ、そっか」と言った。

「先輩は変身できるようになったばかりだから分からないんですね。鬼は外、服は内って言うと、変身は解けるんです」
「お、鬼は外服は内……?」

 龍斗の言葉を復唱すると、俺の服は風になって消え、元の服に戻っていた。

「おぉ……」
「……と、まぁ、先ほどのが桃太郎一行のダゴビキという化け物です」

 変身が解けたことに驚いている俺に、氷空はそう言って目を逸らした。

「なんで目を逸らすんだ?」
「だって、やっぱり先輩をこの戦いに巻き込むのはどうかなって……」

 氷空の言葉に、俺はわざとらしくため息をついてから、彼と龍斗の額を思い切り人差し指で突いた。
 それに二人は驚いた様子で俺を見るので、俺は笑って見せた。

「水臭いじゃねぇか。自分が戦ってるくせに、俺は安全なところで見てろって?」
「それは……」
「俺は、一緒に戦いてえ。たとえ、この鬼の力がなかったとしても」

 俺の言葉を聞いた二人は顔を見合わせ、俺の顔を見た。
 やがて、氷空は諦めたように頷き、龍斗は目を輝かせた。

「やったぁ!先輩と一緒に戦える!」
「ははっ!そんなに嬉しいか。俺も嬉しいぞ!」

 俺はそう言いつつ、龍斗の頭をわしゃわしゃと撫でた。
 そして左手で氷空の肩に手を置き、笑って見せた。

「今日からよろしくな!氷空、龍斗」

 俺の言葉に、二人は大きく頷いた。
 こうして、俺は二人と一緒に戦うことになった。