複雑・ファジー小説
- Re: コクった彼氏は肉食系でした ( No.1 )
- 日時: 2016/08/01 00:08
- 名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: 11yHdxrc)
◇プロローグ 〜あぁ、初恋は、儚くも〜
一日千秋という言葉がある。
たった1日を千回の秋が巡るほどに待ち焦がれる様子を表しているらしいその言葉を私は今、身を持って感じていた。
井上奏馬(いのうえ そうま)先輩。
男子陸上部のメンバー。温厚でのんびりとした性格からか、男子女子問わず周囲からの信頼は厚い。特に目立つような行動はせず、裏方に回っている引っ込み思案ではあるがそのお人好しさゆえに彼女を志願する女子も多い。
以上が憧れの人。私の思い人。ソウマ先輩の基本データである。
ここまで言えば分かるだろうが、並の女子が手を出して良いお方ではない。
特に私のような根暗、コミュ症、友達0が近づけるような存在は、無い。
——ハズだった。
「あ。あそ、その……す、好きれしたぁッ! 付きらってくださいィ!!」
この盛大にコケたセリフを私が吐いたのは昨日。人目につかない校舎裏に先輩を呼び出した時のことだ。
もちろん期待はしていなかった。
どうせ何もしないで諦めるくらいなら告白して玉砕しよう。先輩のことだ、告白したことで私の悪口をいう人では無いだろうし、他の女子が何をウワサしようと私のイメージはこれ以上悪くなりようもない。そう考えての決行だった。
先輩の後光に目を潰されながらも私はどうにかして先輩のことが好きだと伝え、テキトーにごまかして帰るつもりだった。しかし先輩から返ってきたのは私の予想の遥か上、雲どころか成層圏まで超えて宇宙まで届くほどの答えだった。
『……考えさせてくれない、かな。明日まで……。僕も君となら上手く行く気がするんだ』
「クワァ——ッ!!」
若干頬を染めながらそう言った先輩の顔がフラッシュバックして、私はもたれ掛かっていたボイラー施設の扉をガンガンガンガンガンと叩いて奇声を発し羞恥を誤魔化す。
そう。先輩は言ってくれたのだ。君となら上手く行きそう。と
それはつまり、そう、つまり、そういうことですよ、えぇ!!
「はぁっ……。はぁ……ッ」
人目につかない校舎裏で息を荒げる私。緊張しているからとはいえ絵面は完全に変態だった。というかもうヘンタイでもいい。今日この場所で先輩が私の望む答えさえ言ってくれれば、私は栄えての彼氏持ちぃッ! 今さら何を恐れるものがあろうか!
「さーて。先輩まだかな〜?」
猫なで声100%。普段なら絶対に出さないであろうその声で先輩を待っていると、超至近距離から柔らかいハスキーボイスが響いた。
「ごめん……。待った?」
「ひゃ、ヒャぃっ!」
ぞぞぞぞーっと首筋に寒気が走る。
またしても奇声を上げる私にソウマ先輩は優しく微笑んでくれた。
「さっそくだけど……その、一晩考えて……」
「は……はい……ッ!!」
ありがたい笑顔の後光に気圧されながら、私は固唾(かたず)をのんで先輩の解答を待つ。
元々期待していなかったとはいえ、ここまで来た以上、胸踊らずにはいられない。
期待と共にフラれる不安が膨らんでゆく私を、しかし先輩のヒトコトが打ち砕いてくれた。
「僕でよかったら……お願いできるかな」