複雑・ファジー小説

Re: コクった彼氏は肉食系でした ( No.4 )
日時: 2016/07/02 00:12
名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: 11yHdxrc)

 っしゃァあぁッ!!

 歓喜。ココロの中で妙に男じみた歓声を上げつつ拳を握り締める。
とにかく今まで感じたことのない幸福が私を満たす。
 やった……。これで、やっと私もリア充の仲間入り……。
長かった……長かったなぁ鮎河繭美(あゆかわまゆみ)。
 グロ系趣味のせいで周囲の女子からはキモいとハブられ……校則もあるからファッションに気を使わなかった結果、男子からは女として終わっていると笑われ……。放課後になれば楽しそうにはしゃぐ同級生達の声をバックに……ぼっち、下校。

 でも……そんな日々は今日で終わり。
『今までの私』というマユを破り、今日から私は大空へ羽ばたく……。
——要するに……。
「先輩さえ手にはいればお前らなど『へ』でもないわァ……ッ!」
「あ、あの。ちょっといいかな?」
 辛かった回想シーンの果てにラスボス的なセリフを超小声で呟く私と、それに気付いていないのか恥ずかしそうに声をかけてくる先輩。
「は、はい! 何でしょうか」
 思考が危ない方向に行きかけたので、急いで恋愛モードに切り替える私。
すると、らしくもなく「えっと……あの……」と恥じらう先輩。

 え? なになに? もしかして手とか繋いでみたいとか?
いやいやいや。先輩に限ってそんな……。もっとハードなことだよね? ね?
 キ……いや、無理。あ〜でも男子にとって恋愛ってそういう行為のことなのかな?
い、いいよ…? うん。……こんな私でも好きになってくれたんだから、覚悟はしてる。
「ん……。ん〜」
 とりあえずその気はあることを示すために、ちょっとだけ唇を尖らす私。
先輩はそんな私の顔を抱きかかえるように自分の顔を近づけ——ることなど無く。来てからずっと後ろに隠していた左手を差し出した。
「これ……できれば受け取ってほしい。僕と付き合うなら、肩身離さず持っていてほしいモノなんだ」
「えッ?」
 嘘っ!? プレゼント?
そんな、まだ付き合ってさえないのに何で……。
突然のサプライズに驚きながら差し出された先輩の左手に目を落とす私。
そこにあったのは結婚指輪より大きく、告白用花束より不格好な——。
——革製の首輪だった。

「……は?」
 ナニコレ……。え? どゆこと、これ。
犬用? 将来住むことになる二人のマイホームに居る愛犬用なの!?
 首輪と先輩を1秒間に3回のペースで見比べながらそう目で訴える私。
しかし先輩の口から出たのは想像以上の言葉だった。
「僕と付き合う時はその首輪で僕を“縛り付けて”くれない、かな……?」
「……つ、つけ、え。先輩を縛り、私。しば……え?」
 突っ込みと質問が口の中で追突事故を起こしたのか言葉が出ない私。
しかしそんな私など眼中に無いのか、さらに先輩は続ける。
「あの……そうしないと——」
 
「君を襲っちゃうかもしれないから」
 表情が見えないよう、うつむきながら信じられないセリフを真顔で吐いた先輩は「で、その……。なんか今日からすぐに、ってのも気まずいし……明日から学校近くのゲームセンターで待っててくれるかな……。うん、じゃ。また明日ね」と言い残してその場を去った。

「…………」
 カァー。カァーと……地味なカラスが鳴いている。
あぁ。……あぁと地味な私が空仰ぐ。
 あぁ初恋は、儚(はかな)くも。
そんな言葉で済まされるならまだ、よかった。

 いや……夢だ。うん、こんなの夢に決まってる。
きっとフラれたショックで見ているだけの夢なんだ……そうだ、現実を見よう。現実の方が、フラれていた方がまだ……幸せじゃない……ぃ……い。がッ。
「ごガぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
 限界だった。
私は体のあらゆる所をつねっていた両手(こぶし)を突き上げて、大空に叫ぶ。
“夢ではない”と、全身の痛みが証明するこの世界に吠える。

 こうして、私の初恋は始まったのだった。