複雑・ファジー小説
- Re: コクった彼氏は肉食系でした ( No.6 )
- 日時: 2016/07/03 10:46
- 名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: 11yHdxrc)
第1話 今日、私は憧れの先輩に押し倒されました
学校近くのゲームセンター。
心躍る初恋の舞台に“つい昨日までは”なるはずだった待ち合わせの場所。
「はぁ……っ、はぁ……ッ」
そこで私は息を荒げていた。
目の前には先輩。
嬉しいことに私だけを見てくれている。ラブラブだ。
——理性さえ失っていなければ。
「ちっ……」
ゲームセンターの隅で私は静かに舌を打つ。
もっと早く、こうなる前に先輩を止めておくべきだった。
もはや彼の瞳に生気は無く、私を襲うことだけしか考えられなくなっている。
おそらくもう、彼の耳に言葉は届かないだろう。
覚悟を、決めるしかない。
そう自分を奮い立たせた私は、ゆっくりと右手に握っていた『モノ』を先輩に向ける。
そして何のためらいもなく“引き金を引いた”。
先輩の右手に風穴があく。
次の瞬間、そこから思い出したかのように多量の血が噴き出した。
「がっぁああああ!」とその精神にふさわしい獣のように喚き散らす先輩。
しかし私は止まらない。撃ってしまった以上、止まれない。
右腕、右足、脇腹、首、左の手と腕。撃つたび先輩のカラダが何度も宙を舞う。
そして最後に、先輩の脳。眉間に向けて銃口を合わした。
文字通りハチの巣にされ、ボロぞうきんの様な姿で弱々しく呻く先輩。
それ見て、私はこんな状況にも関わらず笑みをこぼす。
何が『君を襲っちゃうかもしれないから』……だ。
拳銃ひとつで怯えるレベルならそんなバカげたことを言わない方がいい。
それこそ、こんな風に——。
「返り討ちにされるくらいなら、ねぇッ!」
弾丸が先輩の皮膚を、頭蓋骨を脳の中心まで抉って……。
そうして先輩は息絶えた。
- Re: コクった彼氏は肉食系でした ( No.7 )
- 日時: 2016/07/03 21:41
- 名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: 11yHdxrc)
『さようなら先輩』「さようなら先輩」
名前も知らない女性声優さんの声と共に私は先輩に別れを告げ、静かに銃を下ろす。
勝利の余韻に浸り、独り静かな時を楽しんでいた私に後ろから水を差す声が、ひとつ。
「そんなにイヤか……まゆまゆよ」
トモちゃんだった。
本名はたしか……えーと、友恵だっけ? 私の中学のOBつまりは卒業生で現在は高校1年生。事実上私どころかソウマ先輩の先輩ですらあるのだがトモちゃんだ。トモちゃんはトモちゃんだ。
そんなトモちゃんに私の目の前で死んでいる先輩を目撃された私は——。
「うん、イヤ」
特に気にすること無く目の前の機体に“銃型コントローラー”を戻して、トモちゃんに歩み寄る。トモちゃんはなんというか困り顔で私を迎えてくれた。
「だからってそのストレスをガンシューティングゲームに向けるなよ……。始終大声で叫んでてたり、人撃つたびにニヤニヤしてたりしてさすがの私も見てるだけで恥ずかしい……」
「いいじゃん、私気にしないし」
「気にしろ」
「ちぇっ。毎回あんな感じだから最近嫌悪を通り越して周りから温かい目で見られるようになったというのに……」
「うら若き十代乙女としてどうなのかを問いたい!」
「トモちゃんこそ、私の保護者として一体どう責任を取ってもらえるのかを問いたい」
「知るかッ!」
なんだか最終的には怒られてしまった。
てか叫びあってるこの状況の方が迷惑じゃね? ま、いっか。
ちなみにだが、私がプレイしていたのは『ブラッティハーツ』というゲーム。
ガンシューティングとしてはよくあるゾンビシューティングにあろうことか学園ラブコメディをミックスさせた奇跡の一作だ。
憧れの先輩と共に学園内を駆け回り、最終的には2人で脱出を果たすストーリーなのだ、が……。
「あーミスったー。……今回。序盤で“たまたま”ルート選択を間違えたから先輩がゾンビ化しちゃって、射殺エンドかー。こっちのルートだとスコア稼げないんダヨナー」
あー。失敗シタナー。
「オイオイ何が“たまたま”だよ……。明らかにいのっちへの当てつけじゃないか」
「……ちっ」
なにやら部外者がうるさい。
せっかく少しだけ鬱憤が晴れたというのにまた不快な気分になったので、私はゲームセンターの隅で壁にもたれ掛かりつつ、ガチトークモードに入った。
- Re: コクった彼氏は肉食系でした ( No.8 )
- 日時: 2016/07/10 19:45
- 名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: 11yHdxrc)
「いやさ……ともちゃん。あんな無茶苦茶なこと告白された私の気持ちも考えてよ。いきなり襲うとか言われたんだよ!?」
「うん、まぁ…ねぇ」
ともちゃんもまた、腕を組んで壁にもたれ掛かる。
「でもさーまゆまゆはそういう積極的なアプローチって好きじゃないの?」
「え……? だって……そんな。恥ずか——」
「いや。そういう女子アピールいいから」
「…………」
驚異的なツッコミの速さに、ある種の絶望と言い返せない現実ともどかしさを覚えながら私は続ける。
「う〜違うんだよぉ……こういう攻略されるルートじゃなくて、気弱で奥手な先輩と徐々に距離を詰めて、その間にだんだん大胆な行動も増えてきて、一時的にお互いの両親から引き離されても私がそれを振り切って、みんなの前で成長した私達を示して恋人としてゴールイン! みたいな先輩を攻略“する”ルートに入りたかったのッ!!」
「ルートって……おいおい、恋愛ゲームじゃないんだから……。妄想に拍車かかりすぎ」
「それ以前に怖いし!」
「まぁ。たしかに恋愛以前に人として怖いレベルの発言だと思う」
「でも先輩だし!」「ほう」
「大丈夫な気がしたからこうやって待ってるわけですよ」
「うん。それでも先輩を待つその勇気は称賛に値する」
「えっへん」「ははーっ」
といった感じでいつもの戯れを終え、とりあえず話を戻す。
「つまりはゲームみたいなテンプレ恋愛がしたかったってこと?」
「うーん、まぁちょっと違うけど大体そんな感じ」
「そっか……」
「ん?」
突然ともちゃんの声が沈む。
何事かと隣に視線をうつすとらしくないトモエが居た。
「でもさ……まさかあんたが告白するとは思わなかったよ」
苦笑いで。まるで何かを懐かしむようなその表情に私は、ちょっと不機嫌に視線を逸らす。
「また…その話?」
真面目な話は基本しないし、したらネタにするがモットーの私達。
その私たちが笑いあえない話の一つにともちゃんの初恋話がある。
ともちゃんの初恋は小学生だったらしい。まだ小さくて何も知らない子供のくせして本気で……自分の全身全霊を注いでやった恋愛の結末は本人が言うには“たったヒトリで終わった”そうだ。
誰にも知られず、当然誰にも理解されずに……仲がイイままで、『友達』のままで、今でも付き合い続けている。そんな話を……何度か聞いた。
「いや、そういうシメっぽい話はしたくないんだけど……なんか嬉しくて」
「えーなにそれー、なんでトモちゃんが嬉しがるの? 気持ち悪いわー」
だから何だと言われればそれまでだけど。
「……後悔のないようにね」
だけど。
「言われなくとも」
だからこそ今日、ともちゃんをここに呼んで。
「防犯ブザー持った? 危険になったら逃げるんだよ?」
こうやって馬鹿やってるんじゃないかと思う。
「うん。ちゃんと先輩から渡された首輪も持ったし!」
そうして叱咤激励を受けた私は、先輩を待つべくトモちゃんと別れを告げるのであ——。
「ちょい待って」「へ?」
完全に話を〆る方向に持って行っていた私をトモちゃんが止めた。
「ちょっとー空気読んでよトモちゃん……。今話が綺麗に終わる所だったでしょー? エキストラはメインヒロインの邪魔しちゃダメなんだよ……?」
「私以外には挨拶すらできないコミュ障のどこがヒロインだッ! ってそんなことはどうでもいいよ、ちょっと待って! ……も、もしかしてさ。まゆまゆ本気でその首輪が自分の身を守ってくれる思ってる……?」
「え? だってこれで先輩を縛れば万事解決だよね?」
わざわざ私の完璧シナリオを止めて、一体ともちゃんは何を言っているのだろうか?
目立ちたいのかな?
「あ、もしかして私の羞恥心の問題? 本気で先輩にこの首輪を付けれるか疑ってるの? 大丈夫、私こういうのに羞恥心は無いから。むしろウエルカムだと——」
「いや! そういう問題じゃなくて先輩を縛ってどうする気なの?」
「ど、どうする気って。このヒモさえ握ってれば先輩は自由に動けないし……あ、いやだからってそういうことする気はさすがに私でも無い……ト思う、んだケド」
まぁ。考えてみればすごくおいしい状態ではあるけれどもそんなことはしない。
そんな決意を固める私を尻目に、ついにともちゃんが頭を抱えだした。
「あ゛ぁもうこの脳内妄想馬鹿……。アンタがヒモを握ってて、襲われた時。どうやってアンタ自身の身を守るって言うの?」
「あ……」