複雑・ファジー小説

Re: イエスタデイ・ワンスモア【オリキャラ募集中】 ( No.309 )
日時: 2016/10/25 20:28
名前: 翌檜 (ID: n1ZeCGPc)

第二十幕 宿り木

小さな花屋、宿り木と言う店がある。客は一人も入らずに見る限り売っている花さえも無い。だが偶然、この店に入った者は心を魅了され心を癒されている。

全ては偶然から生まれたエピソード。その偶然を奇跡に変える為、小さな花屋、宿り木を経営している虫朱 聖(むしあけ さとし)は一つの花のみを客に提供する。

「ようこそ、残念ながら此処は普通の花屋ではございません。お時間があればの話ですが、貴方の話を聞きますよ?」

近くの花屋の女性は花屋の真ん中に立ち愚痴を話す。

「私はハッキリ言ってそう言う自分に酔った隠れ家的な店は大嫌いです……。何と言うか敷居が高くて。それに花屋で敷居が高いなんて何様なんですかね?心が癒されるかなどうかは知りませんけど、花を自分の評価を上げる為に使っているなら止めて頂きたいです」

女性の名前はマシロ。彼女は母親から代を受け継いできた立派な花屋。近所に出て来た宿り木にご不満がある様子。

「あんなお店に私は入りたくもありません……」

場面は変わり、マシロは花の市場にいた。

「花屋は花を仕入れる為に市場に向かって花を購入します。私は白い花が大好きなので白い花を中心に」

さらに場面は変わり、花畑にマシロはいた。

「私は正直、宿り木の店長が気になってしょうがなかったんです。私が単に嫉妬してるだけかもしれませんが。でも実際にこの目で見たくなりました。

虫朱(むしあけ)さんの言う奇跡とやらを」

マシロは宿り木へ向かう。

「明らかに自分に酔っていますね。それに隠れ家の通り敷居が高いです。……まず暗い店の地点で花屋失格です。花が可哀想ですよ」

マシロは少し重い扉を開く。

「全くBARのつもりですかね。くだらな過ぎます」

店の中は、外の重々しさとは違い、一転して明るかった。そして一人の男性がマシロに声をかける。

「当店へようこそ」

「花が一切ありませんが?」

「当店は花屋ですが相談所でもあります。普通にご購入したい場合は裏手にお周り下さい」

「裏手?」

「あ、此処からでもいけますよ」

虫朱は扉を開くと、普通の花屋の光景が見れた。

「普通の花屋は私の彼女が経営しています」

「……私は虫朱の奇跡を見たいんです。なので普通の花屋では無く相談所の方にして下さい」

「はい、では相談内容をお聞かせ下さい」

「……」

マシロは話す。

「私はこの時、何も相談を思いついていませんでした。なので適当に話す事にしました」

虫朱はマシロと一つの空間にいた。其処には花が一杯あった。

「実は私、あの花を育てたいんですが何も分からなくて」

「あの花?」

「あの白い花です。相談はあったのですがどうしてもあの花が気になって」

虫朱はマシロが言っていた花とは別の花を用意する。

「真っ白ですけど、私が育てたい花じゃないですよ?」

「原産地は熱帯地域のアメリカ。耐暑性が強く初心者でも育てやすい花です」

「だから私の言ってる花と……」

「この花はクレオメ。花言葉の意味は貴方の容姿に酔う、です」

「……!」

「……」

「花はナンパの道具じゃないんですよ?」

「そうですね」

「分かってるなら……」

「貴方は自分の経営している花屋に酔っているんです」

「失礼ですね」

「いいえ、それで良いんです。自信が無いと経営なんて無理ですから。私だって自分に酔ってますよ。酔っていないとお客様の相談に聞く事が出来ませんから」

「花屋に相談も奇跡もいりません」

「でも必要としてる人がいるんです。何か、言って貰いたい人がいるんです」

「……」

「自分にずっと酔うと、相手の事が嫌いになります。嫉妬してしまいます。そんな苛立ちを少しでも癒せればとこの相談所を設立しました」

「……ならハッキリ言うわ。こんな手で人気出たって邪道です。話題性だけでごちゃごちゃ自分の意見を言って何様ですか?中身空っぽで、何処にでもある様な良いアイデアを適当にやってるだけですよね」

「そうかもしれませんね」

「ほら、そうですよね」

「ただ、私は絶対に生半可な気持ちで此処にいる訳ではありません。邪道だろうが話題性だけと言われようが私はお客様の為に相談を聞き、その結果に相応しい花をプレゼントします」

「なら、この相談の結果を花で表現して下さい」

虫朱は何もしない。

「やっぱり何も出来ない、素人ね」

「私はもう花を提供しております」

「……まさか、クレオメ?」

「クレオメのもう一つの花言葉は、秘密のひととき。貴方のその相談は私にだけしか言えません。私だけが聞ける相談。まさに、秘密のひととき」

「最初から狙ったわね」

「はい……」

「……でも相手のことを考え、思い、感じ取ることができるのは称賛します。また、愚痴を話に来るわよ。で?お会計は?」

「クレオメを付けて無料となっております」

「……気前が良いんですね」

「相談を聞かせて貰うだけで私は十分です」

「……宿り木、良い名前です。貴方の才能に相応しいわよ。私は貴方が嫌いだけど」

「ありがとうございました」



此処は宿り木。来た人間を例外なく安らぎを与える相談所兼花屋。