複雑・ファジー小説

Re: イエスタデイ・ワンスモア【オリキャラ募集中】 ( No.310 )
日時: 2016/10/26 16:14
名前: 翌檜 (ID: n1ZeCGPc)

鈴の音が鳴る。それは綺麗な音色。そして鈴は想いを紡ぐ。



宿り木と言う店に花は飾らない。来客者が望んでいる花を確実に提供出来るからである。それはまるで、メニューの無い料理店のように。





「わ、私は昔……父に花を貰う事になりました」

一人の女性はフランスの民家に立っていた。女性の名前はエデル。

「エデル!」

「でも私は……当時引きこもりでした。原因は外にいるより家にいた方が良いから。まあ親はそんな事、許す訳もありません」

「エデル!」

「だ、黙ってよ!わ、わた、私はもう嫌なのよ!!ど、どうして私を苦しめるの!」

エデルは飼っていた猫を抱える。

「そして私が引きこもっている内に、父親は事故で死にました。母親は私にこう言ったんです」

葬式でエデルの母がエデルに駆け寄る。

「父さんは貴方との約束を果たしたかったのよ。一緒に花を見る約束を」

「……」

エデルには過去の記憶は無かった。理由は思い出そうと言う意思が無かったから。エデルの頭の中は空っぽだった。

そして舞台は宿り木へ。

「それで、相談とは?」

「父との約束は遅いかもしれないけど果たしたいんです。だけど私は、父が好きな花を知りません。私は……それほど親と一緒にいる事は無かったんです」

「では果たせなかった過去の約束の為に……」

エデルと虫朱はフランスの民家に立っていた。

「エデルは今日もいるのか」

「いってらっしゃい」

「……」

「貴方……今年はやらないんですか?」

「……私はその花が嫌いだ」

エデルは話す。

「嫌いな花?」

「そうなんです。嫌いな花があるらしくて。まあ関係無いと思いますけど」

「今年は?と言う事は毎年何か花に関連したイベントを?」

「覚えてません。でも私の家だけじゃなくて他の家でもやってますね」

「地域限定……。この日はいつですか?」

「五月一日です」

「フランスでは祝日ですね」

「……」

「好きな花では無いですが、お父さんが嫌いな花なら分かりましたよ」

「そ、そうなんですか?」

「嫌いな花は、鈴蘭(すずらん)です」

「どうして分かるんですか?」

「フランスでは五月一日に鈴蘭を送る素敵な文化があります。送る理由は他者の幸福を願う為」

「……父はどうして嫌いなんでしょうか?」

「私の考えすぎかもしれませんが……」

虫朱は鈴蘭を用意する。

「時期とは異なりますので提供は出来ませんが、無料で見れるので」

「……」

「フランスの文化には、鈴蘭についてもう一つあります」

「……あ」

「ご存じですか?鈴蘭は花嫁に送る花でもあります。つまり親からの巣立ちです。まあ大人になれば親からは巣立つんでしょうけど、今までの家族から巣立ち、新しい巣を造る。

お父さんは貴方に対して考え、とても寂しかったのでは無いでしょうか」

「……」

「そして鈴蘭の花言葉は、戻ってきた幸福。再び幸せが訪れる。貴方との約束で見たかった花も、鈴蘭だと思いますよ」

「……そうなんですか」

「あくまでも私の綺麗事ですが。少なからず、お父さんは貴方と親子でいたかったのでしょう」

「……はい」

鈴の音が鳴る。

「今度、母を来て良いですか?勿論、父も。この鈴蘭を見せてあげたいんです」

「はい。いつでもお待ちしております」