複雑・ファジー小説
- Re: イエスタデイ・ワンスモア【オリキャラ募集中】 ( No.313 )
- 日時: 2016/10/27 18:37
- 名前: 翌檜 (ID: n1ZeCGPc)
花は刹那だが、何かを残す。琥珀は永遠の時間を流れ、美しくなる。
「……こんな所で何の用なの?」
「此処は、二人で初めてデートした公園だよ。覚えている?」
「勿論よ」
「私は、誰からも望まれなかったとしても、君を幸せにするよ」
「それって、プロポーズ?」
「ああ……そうだね。ほら、ダイヤの指輪。綺麗だろ?」
「……ええ。輝いているわね。けど、琥珀の方が好きよ?」
「何言っているんだ。ダイヤの方が、輝いているよ」
これが、二人で最初の時だった。
夫と妻は、二人で人生の時間を歩く事を決めた。
夫は宿り木に来て話す。
「私は、宝石が好きだ。ダイヤにルビーにエメラルド。私に相応しい装飾品だ」
虫朱は花を見る。
「花は?」
「そんな直ぐに枯れる花等、縁起が悪い!」
男は、笑いながら、沢山の宝石を身に着けていた
この男は既婚者で本日、結婚記念日三年目。
男はこの日を決して忘れる事無く日々、仕事に精進していた。朝から晩まで働き妻には何不自由ない理想的な生活を送らせていた。いや、送らせないといけなかったのだ。
妻の両親は、男を嫌っており、結婚も反対されていた。
「君では、私の娘を幸せには出来ない。お前のような、中身が空っぽの男にはな。だが、娘は君を愛している。その事に関しては何も言わない。ただ、私は君が離婚するのを、待ちかまえている事にしたよ」
「……お父さん。私は、沢山の宝石が変える程の金を持っています。私は彼女を幸せに出来ます!」
「もし、もう一度、同じ言葉を発したのならば、私は君を許さない」
男は、自身を妻の両親から信用されていないと思った。
男は、結婚式以外の時を、労働に使った。
妻も自由に欲しい物を買い美しい宝石も買えた。
男の会社内からも人望が厚く未婚者からの憧れだった。
「……素晴らしい輝きだ。これなら彼女にも、ご両親にも喜んでもらえるな」
男に電話が入る。
「すまない。社内でトラブルが起こってね。急きょ、来てもらえないか?」
「……あ、はい……」
虫朱は話す。
「どうかしたんですか?」
「結婚記念日と言うのに、会社から連絡が入ってね。相談はまたいつかにするよ」
「もうすぐ、貴方の元に奥さんが来ると思いますが」
「ああ、しかし何故結婚記念日に此処に来るのか分からないな。相談所に来るなんて」
男は、急いで身支度を始める。
「行くんですか?」
「勿論。妻の為に働いているからな」
すると、宿り木の扉から妻がゆっくりと入る。
「あなた……?」
「……今日は、結婚記念日だったね。でもすまない、会社に戻らないといけないんだ。この美しい宝石を置いていくからこれでも見て待っていてくれ」
「……また、仕事?」
「そうだ。それじゃ……」
妻は、高笑いしながらプレゼントを投げつける。
「……外面だけで、満足してさ……私の事、一度も見てくれなかったよね。この三年の時の間に」
「……おい、どうした?」
妻は、宿り木を飛び出す。
男は、プレゼントを持ち妻を追うが見失う。
男は、プレゼントが、妙に軽いと思う。
「いつもは、琥珀の装飾品なのに……」
「そうなんですか?」
「ああ、私と違って安物を……」
男は、プレゼントを開けると離婚届が入っていた。
「そんな……どうして!?私は、こんなにも頑張ったのに!」
虫朱は話す。
「貴方が見ていたのは、あの奥さんじゃ無くて、両親と仕事の評価だけだったじゃないんですか?高い宝石で必死に外面を固めるのならもっと奥さんに構ってあげればよかったと。そう、彼女が欲しかったのはダイヤでもルビーでも無い。あなたとの、時。
貴方と、琥珀みたいに、あの優しい輝きで、奥さんは包んで欲しかったんだと思います。
琥珀の時に身を任せ、あなたとゆっくり過ごしたかったのでは?」
琥珀は元々、地質時代の植物樹脂が地層にうもれていた化石。ダイヤのような宝石とは違い、化石である。だが、何万年と掛けて、とても美しいモノへと変貌する。妻は、生命が終わっても、とっても美しい人生だったと、感じていたかったのだ。
男は電話をかける。
「……おい、会社に着いたのか?」
「もう少しだけ待って下さい。失った時を取り戻したいので」
「は?」
夫は、妻の元に走る。
そして公園で二人は、また出会い、琥珀の時に身を任せ、互いに持っていた琥珀の装飾品を身につける。
決して、失った時は戻せないが、これからの時は、きっと琥珀のように、優しく明るく、輝いているだろう。
夫と妻は、二人で人生の時間を歩く事を決めた。
虫朱は呟く。
「でも、此処は花の相談所。この素晴らしい結末に生け花の様に手入れさせて頂きます。ん?どう言う事かって?直ぐに分かります。私の物語はオマケですが本編です」
夫と妻の前に花を持った虫朱が来る。
「ああ、虫朱さん」
「花は琥珀や宝石と違い、輝きも時も感じる事はありません。しかし、花は次の生命に命を託し、次の世代を生み出していきます。刹那の時でも、花は美しい。この花は毒があるので提供は出来ませんが……」
「毒?」
「ええ、この花の名前は沈丁花(じんちょうげ)。花言葉は永遠です。では、永遠であり刹那な様な時間をお楽しみ下さい」
夫と妻は美しい時に身を任せる。
このエピソードのみ、このサイト様で私が過去に書いた短編を元にリメイクした物です。