複雑・ファジー小説
- Re: 埋もれた世界の、 ( No.1 )
- 日時: 2016/07/31 17:33
- 名前: Tomoyami (ID: NywdsHCz)
story1
——埋もれた世界の、
[1]
『次—終——ろし—...———ま—...お出——右側で—...』
最後のアナウンスもとぎれとぎれにしか聞こえない。少年はイヤホンをみぎだけ外し、首にかけた。
膝の上には六行ほど綴られた作文原稿用紙。ちなみに、原稿用紙は五枚だ。
少年は惜しいような、とっくに諦めたような目でそれをじっと見つめると、目をつぶってリュックサックへ押し込んだ。
はじめは空いていた人も、終点近くになると、まるで人間以外の大きな何かが人間を車両に限界まで押し込み、詰めに詰めた状態のようだ。
少年は始めに出ようとしたが、三分の二程度の人が出ていってからやっと立ち上がることが出来た。はじめに向かい側の席に座った女性は未だ爆睡中のようだ。少年は軽くため息をつくと、横へほぼ四十五度傾いた女性の肩をぽんぽんと叩いた。
「終点ですよ。起きてください」
女性はとてもゆっくりと目を開けると、文字通り飛び起きた。少年を見た途端数秒固まったように見えたが、すぐにありがとう、と寝起きの声で言うと立ち上がり、早々と出ていった。
「?...ついてた『ヒトガタ』がいなくなったからぐっすり寝てしまったのかな」
結局少年は、次々と乗り込んでくる人に押され挟まれながら一番最後に降りた。よく考えると、さっきの女性はどうやって出たのか疑問だ。
改札を通ると、定期を持った小さな真っ黒人型物体が少年の隣を通った。物体が定期を通そうとジャンプしたところを後ろから撃ち抜いた。少年は床に落ちた定期を拾って駅員へ届けると、別の電車へ向かった。
さっきより満員の人混みの中、少年は左手をポケットへ移動させることを試みていた。しかし許されるはずもなく、右手を手すりに、左手を壁に押さえつけられた状態のまま身動きがとれなかった。目の前にまた人型物体がいるが、この物体も周りの人に押しつぶされそうになっていたので、少年は特に注意はしなかった。
駅に着いた時に、どちらも開放されたので少年は容赦なく撃った。
「ずっと押し付けられてた左手が痺れる...」
そういいながらも学校につくまでの約二十分の間に四発撃った。
「今朝は七匹か。よし...昨日より少ない。...暑い」
道の途中のコンビニから人が数人出てくる。冷たい空気が少年の体をうっすらと冷やす。
少年はいつものように、コンビニの中へ吸い込まれるように入っていった。
***
「さて...先生に何て言い訳しようか...」
教室に着き、扉の前でそう呟いた。
—continue—