複雑・ファジー小説

Re: 埋もれた世界の、 ( No.5 )
日時: 2016/07/31 18:37
名前: Tomoyami (ID: NywdsHCz)

story1




——大地に、




[4]



キーンコーンカーンコーン...



お昼休憩のチャイムが鳴る。
ざわざわとし始めた教室の端で、サツメはスクールバッグからコンビニで買ったサンドイッチを出す。三角状の2枚のパンにはハムとレタスと卵が挟まっている。いつものサンドイッチだ。
サツメはガサガサと袋から出し、それを一口かじる。

机の上には今朝の作文原稿用紙。シャーペンを握った手はピタリと止まっている。やはり六行のまま一向に進んでいない。
サツメは大きなため息をつく。

「全く進んでねぇなお前」

後ろから男の声が聞こえた。サツメはゆっくりと振り向く。

「...柳田くん」

柳田と呼ばれた、背が高くがたいの良い男はにやっと笑い、サツメの原稿用紙を覗きこんだ。

「その柳田くんってのやめろよ...ヤナギでいいヤナギで。...どれどれ、『僕の人生は平凡でとてもつまらないものである』...。ははっサツメらしいな!」

ヤナギはサツメの頭を荒く撫でる。サツメのサラッとした髪は途端にボサボサになる。

「『人生』をテーマに書くって難しすぎっしょ!高校生にそんなの書けるわけがねぇ」

「柳田く...ヤナギはどのくらい書けたの?」
「あ?俺か?て言ってもお前よりは結構書けてんぞ!」
「そっか...」
「おいおい、がっかりすんなよ!こんなの適当にちゃちゃっと書いちまえばいいんだ」
「がっかりはしてない...」
サツメは無表情でヤナギを見上げる。

「...ま、作文頑張れよ。飯一緒に食ってもいいか?」
「うん、...いいよ」

ヤナギは持っていた大きな弁当箱をサツメの机の上にドンッと置き、誰もいない前の席の椅子をサツメの方に向けて座った。
ヤナギは弁当の蓋を開ける。中には大きな卵焼きや大きなハンバーグなど、とにかく大ききな具がぎっしり詰まっていた。それが、二段。

「いただきまーす」
「...」


サツメは、大きな口にみるみる吸い込まれていく弁当の具を可哀想な目で見つめていた。サツメがサンドイッチの2枚目を食べ終わった頃には、ヤナギの弁当は空っぽだった。
さらにヤナギはサツメのサンドイッチを羨ましそうに眺めてきたので、1枚与えた。それも、一口で食べ終える。


...まるで、掃除機だ。それも吸引力の良い、あの掃除機。



ーcontinueー